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アイドルは異性恋愛禁止

by 夢喰

6. 男装は恥ずかしい、だって女の子を意識するから

新年になりました。

ミミ君の撮影デビューは下旬からだけど、養成所に2年近く行っているあたしは暇じゃない。昨年からどさ回りレベルながらも最後列の隅っこに時々出してもらっていた出世頭なのです。夏の事務所揃っての水着披露では、あたしもカメラから見て3列目ぐらいの位置に映って、それがなんと、ローカルテレビどころか、全国でもチラット出ていました。まあ、だれも気付かないだろうけど、それでも全国。そして、どさ回りでは、3列目ながらも中央の直ぐ隣にまで進出。歌だって、合唱オンリーから一歩進んで、1小節程度の多重唱のパートを一人で任されることもあるようになったし。

まだ事務所のWEBサイトにしか個人紹介は出ていないから(芸名しか無く個人情報は秘密)、同級生には見つかっていないけど、バレるのは時間の問題。特に年末年始の生中継(ローカルでしかも昼だけど)では見つかった可能性はある。というのも、風邪や年末年始の家族行事で参加できない娘の代わりに、始めて2列目に進出したから。ただでさえ、出世頭として同期の連中から陰口を貰っているけど、今後は、その手の嫉妬が増えそうで、その分、愚痴相手のミミ君はより重要になっている。もっとも1年前に一番嫉妬の激しかったチクり娘は「ミミ君の女装」という偉大な目的の元の同盟するようになったから、その意味では少し楽になったけどね。

生中継の翌日、ミミ君と一緒に初詣に行きました。ミミ君の家でお節料理を食べて(ちゃんと我が家の手作りの奴も持って行きましたよ)、それから着替えに付き合って、それで一緒にゴーって流れ。初詣って、人が多くて、他人と至近距離になるので、体型だけでなく、臭いなどからもバレる可能性があるんだよね。それを防ぐべく、初詣の前にミミ君のところに行って、厳格にチェックする。というのは口実で、本音は昨日までの生中継での疲れを癒すため。愚痴だけでなく、ミミ君の可愛さが段々上達する様子そのものも、最近は楽しみになっているし。ちなみにチクり娘も一緒。

まだ中学生で13歳(ミミ君が14歳になるのは3月)だから、振り袖では無いけれど、それでも目一杯おしゃれをするよね。そのつもりでいたけど、意外と早く終わっちゃった。年末から混雑=至近距離による「男バレの危険」を散々吹き込んだから、ミミ君も覚悟を決めて体型補正とかしてたし。というか、ミミ君のお母さんの話だと、年末年始、24時間偽股間すらずっとつける完全女装だったって。そのきっかけになったらしいのが、終業式の日に速攻で連れて行った美容院(1カ月前予約だよ)でやって貰った、パーマなんだな。ボブカットの軽いカール用だったけど、それでもパーマは始めてだったみたいで、
「いよいよ撮影か」
という覚悟度合いが一段とあがったのだと思う。

もっとも美容院に行くまで、ミミ君はボブを誤解していたみたいで、夏と同じように
「短く切りそろえるだけ」
と思っていたみたい。なので、自然な流れでパーマされてミミ君にはショックだったようです。でも、4ヶ月で5〜6センチ以上伸びて、夏の終わりに耳が半分隠れるぐらいだった髪が、耳を完全に覆って、カールを掛けて可愛いと思えるぐらいのボブが可能になったのだから、これを夏ぐらいの短さにするわけないじゃないの。ミミ君の落ち度だよ、これは。とはいえ、そんなこと言って拗ねられるのも難なので、当たり障りのない言葉で説得したけど。2週間もすればパーマが寝癖に負けて「男の子のボブカット」になるとか、冬休み2週間でボブカットに慣れることの大切さとか。止めに「男のボブカット」の例を検索で見せたら納得してくれた。

ちなみに夏の終わりの時は、だまし討ちみたいに女の子カットにしたし、長さもカールさせるには足りていなかったから、とてもパーマじゃなかったな。それでもミミ君にはショックだったから、あの時パーマまでに踏み込まなくて良かったと思っている。お陰で2学期は髪の毛を切らないでいてくれたもの。ミミ君は夏休み明けほどではなくても、耳が隠れるか隠れないかぐらいまでカットすることを予想していたみたいだけど、残念でした。

そんなこんなで、頑張ったのが報われて、初詣の時のミミ君は普通に可愛い女の子でした(中学1年生レベルだけど)。基本は白系のセーターと淡い赤系のスカート。人の多い所で他人と違う配色は目立ちすぎてミミ君への負担が多いだろうということで、あえて地味に普通の暖色系。そのかわり、セーターの下のブラウスとスカーフ、アンダーバストの位置につけたアクセサリーで、中学生の精一杯感を出しました。来年は外国人向けの簡易着物かな。髪がもっと伸びれば似合いそう。

靴はローファーとパンスト。ニーソックスでも良かったけど、いつまでも膝の継ぎ目を恐れていては先に進めないということで、パンストに挑戦させました。これなら万が一転んでもソックスがめくれても偽尻使用がバレない、って言ったら承諾してくれたなあ。いまさら承諾? 実はそうなんだよ。驚いたことに初使用だって。ローファーのほうは養成所で何度か訓練させたけどね。パンストが初めてってのは意外だったけど、考えてみればミミ君は女装時は中学「1」年生。高校になるまで履いたことのない人もいるらしいから、あり得ない話じゃない。

こうして、あたしは(おそらくチクり娘も)、ミミ君との初詣で、すっかり充電させてもらいました。時々、ほんとに同性じゃないかと錯覚するぐらいで、要するに素直な妹と一緒に行動した気分。


そういう充電気分を保ったまま、正月4日に養成所でマネージャー氏にミミ君の近況を秘密裏に報告しました。新学期を前に、ミミ君をどうするか考えないといけないから。とりあえず、全て順調ってのが現状認識かな。

今のミミ君は学校以外常時女装して、下着どころか体型補正までやっている。学校ですら上着を脱がない日の下着は女物。そんな子は、医学的にどうであろうと、世間的には性同一性障害と見なされるよね。ミミ君の母親だって、半分以上、そうではないかと思っているし、近所のオバちゃんたちは100%信じきっているだろうな。それは、あたしにとってもマネージャー氏にとっても嬉しいこと。というのも、普段着の女装は、あたしという友達に背中を押されたもので、マネージャー氏は一切関わっていないから。

つまりマネージャー氏はミミ君が性同一性障害だと信じていて、そういう子を女の子役として番組で使うことで、普通の女の子と同じ土俵で活躍するチャンスを与えた、という美談になるわけだ。あとからバレた場合すら「デビューでのプライバシーをよくぞ守った」と褒められるはず。こうして、マネージャー氏が気にしていた「押しつけ女装」という人権問題を気にしなくて良くなりました。あたしのほうも「彼女が女の子になりたいって知ってましたから、それを助けてました」と答えて辻褄をあわせれば、嫉妬まじりのボーイフレンド疑惑は吹っ飛ぶし。っていうかチクり娘もそれが分かっているからミミ君の女装に熱心なのよね。

とはいっても性同一性障害という噂が一人歩きしすぎて、女装の先に進まれると困る。あたしやチクり娘は「異性の友達=愚痴り相手」が欲しい。マネージャー氏だって、「男の娘」が欲しいのであって「元男性」ではないから。「男の娘」ブームの昨今、ニューハーフの需要は低いんだよ。

だからミミ君には、愚痴を聞いてもらう度に「ミミ君が男の子だからこそ言える」「ミミ君が男の子で良かった」「ミミ君が男の子だと誰も気付かないから助かる」と感謝を伝えているし、おそらくチクり娘も似たようなことを言っていると思う。それでいて、体格や仕草には普通の女の子以上の女らしさを求めて、股関節まで矯正させているのだから、我ながら身勝手とは思うけど、ミミ君だって、あたしと仲良くなれて、あたしに一番密着している男の子という立場を享受しているのだから、ウインウインの関係じゃないかしら。嫉妬の嵐に平然と立ち向かうには、そう思うくらい太い神経が必要なんだよね。本物の大天才なら違うかもしれないけど、あたしみたいに、普通よりちょっとだけ奇麗でちょっとだけ賢い「学校内限定アイドル」のレベルの人間がトップを目指すには、他人を利用するぐらいは普通に必要だと思う。この業界はやっぱり業が深い。

取りあえず、学校は今までどおりのような気がする。確かに髪型は、今のミミ君ほどに長くてかつ女の子っぽいボブはいない(体育祭での感想)けど、長髪の、耳が半分以上隠れるのもちらほらいた、服装に緩い私立の良さってだよねえ。しかも、ミミ君の場合は、本来なら短髪であるべき9月の頭にボーイッシュな女の子という感じの長さが黙認されてたから、その後、自然と伸びるままにしてもクラスメートは余り気にしないだろうし、そもそも2学期に「腫れ物を触る」形でスルーされた以上、それに慣れたクラスメートが、新たな波風を立てるとは思えない。まあ、体育の着替えの時にミミ君の下着に注目するかもしれないぐらいかな。

そこまでマネージャー氏と雑談していて思い出したけど、ミミ君は未だに学校へは偽股間も股関節矯正器も使わずに行っているんだった。クラスの女子が股間を見る視線が気になるとかで、体育のない日に偽尻を使っているだけだっけ。股関節矯正器の方は慣れてきて矯正内股で歩いたり走ったりするのを始める時期だろうし、その際に偽股間を使ったままの運動にも慣れさせるべきよね。その件についてマネージャー氏に何か進展があるのか再確認したら、
「そうだった、そうだった、お年玉プレゼントがあるんだった」
と言って、妙なものを取り出してくれました。何を隠そう、男装用に股間に偽の膨らみを作るキッド。それを見て赤面するあたしをよそに
「これで、男装させればよいね」
とのたまわる。女の子の下半身体型と股間を完全に押し込める訓練をしつつ、見た目はりっぱな男股間をカモフラージュするんだとのこと。これってあたしも使えるタイプ? って思ったのは内緒。

説明を聞いて納得したあたしは、それをミミ君のところに持って行く役目を仰せつかりました。っていうか、新学期前に「女装バレ対策」の復習のためにミミ君のところに行くことになっていたので、「演技のための新しい挑戦」としての男装用具を渡すには丁度良かったかな。ちなみに説得理由の追加としてマネージャー氏が「シャークスピア以来の伝統」ってのを教えてくれました。少年俳優に「男装するヒロイン役」をさせるというやつ。ベニスの裁判官とかね。

シャークスピアの話がミミ君の中二魂を刺激したのか、ミミ君はなんとか合意してくれました。というか、男装グッズなら問題ないだろうと思っていたら、とんでもない抵抗にあって、シャークスピアの話でやっと納得してくれたって次第。後日色々聞いて分かったんだけど、男装グッズを必要とするってのは「自分は男でない」と感じさせるらしい。

ともあれ、ミミ君は3日程自宅で練習したあと、体育の無い日は偽尻+偽股間+股関節矯正器という女装セットの上に偽男股間を装着して登校するようになったのです。パチパチパチ。偽尻も併用する(股関節矯正器の上に填めている)のは、股関節矯正器だけだとラインが不自然になりかねないというのが理由で、こっちは12月から近所に出かける時などで時々やってたみたい。ミミ君の家でも、そんな姿を見かけた頃があるし。お陰で、尻が以前より膨れている。うん、女の子のバストが日々に大きくなるのは当たり前だから、これで良いよね。

股間に偽膨らみを入れて「男」を強調するってことは、自然と学校でもトイレでアサガオを使うってことだけど、これは仕方ないか。でも、ミミ君が学校でも座って小用を足すようになるのは時間の問題かも。だって、ミミ君の学校では、トイレの一部(渡り廊下の各階にあるやつらしい)の洋式化工事を始めて、該当する男子トイレは同時に個室化してアサガオを無くらしいから。そのトイレは校舎の端の教室からだと、教室校舎の中央にあるトイレと同じ距離にあるから、来年ミミ君が気楽に行けるはず。というか、そういうクラス割りになるだろうってマネージャー氏が言っていた。名目はトイレの洋式化の試験だけど、これってきっとミミ君のためだよね? マネージャー氏、学校側に働きかけたでしょ? 性同一性障害を隠したがっている子の為とか、そういう子がテレビデビューしたら学校の宣伝になるとかなんとか言って、多目的トイレの増設でなく、男子が座って小用を足せる環境を作ったんだよね。ミミ君、外堀を埋められているよ。


そうこうするうちについに撮影の日がやってきました。撮影自体は土曜午後に1回分の収録を、翌日曜に2回分の収録をしたのだけど、あたし達下級生役のエキストラが出るのは、その中でも極一部で、下級生の活動に主人達3年生が指導する場面とか、脇役の部活の下級生役とか、下級生内部で起こった対立を、主人公達が解決する話とか。そもそも、勉強や部活の悩みを、趣味や家族の話、定番の恋愛といじめモノは一周目は3年生だけで済むので基本的にあたし達の出る幕はないし。

あたしたちが画面の一部に映るのは、どの回も5分程度で、特定の台詞は無く、ふつうの雑談だから、放映では雑音として処理される。なので、とりあえずは目立つこと避けて様子見。だって、この機会に売り込みたい下級生エキストラ連中が目をギラギラさせてたかから。そんなアピールなんか制作陣が全て無視するのは当然だし、それどころか目立ちすぎることをしないように、っていう注意があったぐらいで、ここで動いたらマイナスってのは、常識知ってれば分かるよね。突き抜けた人なら違うだろかも知れないけど、そんな人はこんなエキストラじゃなくても頭角を顕すだろうし。

そんな感じで、目立つことなく終わっちゃった。ミミ君は「他のエキストラ達やカメラマンにバレなかった」ってホッとしているけど、上を目指すあたしには物足りないのよね。次回に期待かな。3月の収録では台詞もあるから、そのとき頑張ってみよう。その結果ミミ君が目立ってしまったら? そんなことまで考えるほどにあたしは余裕があるわけじゃあないのよ。すべては成り行きで。あたしはあたしの為に目立つだけ。

撮影場所は、スポンサーとなった女学園の一角で、この時間に残っているのは運動部だけなので、かち合わないような誘導は簡単みたい。あたし達それぞれの学校の制服で現地集合だから、課外活動中の在校生には「高等部編入の為の学校訪問」ぐらいに思われているかも。もっとも、エキストラの大半は、各養成所から車でまとめて乗り付けているから、在校生には見られてすらいないだろうけど。あたしたちもそう。だって養成所からちょっと離れているんだもの。

撮影用のセーラー服はオーソドックスなタイプだから、自前のセーラー服を持っている人はなるべくそれを使うようにというお達しがあって、あたしもそれを使うことにしている。というか、このエキストラを決める際に、自分の使っている制服がセーラー服の子を優先しているみたいで、それであたしが真っ先にエキストラに選ばれたってな流れなのよね。それでも半分ぐらいは貸し出しってのが、さすが養成所に行くような子は私立中学が多いというか。養成所って月謝が結構高いから、金持ちで中学から私学に行かすようなエリート志向の極めて高い親がバックについてるのよね。

ミミ君はあたしの後輩というか、妹分というか、そういう感じに養成所で思われているから、ミミ君が「セーラー服」枠に入るのは自然な流れで、そうなると、今日は家を出るときからセーラー服を来て養成所に向かわなきゃボロが出る。もちろんセーラー服に慣れてもらうために、12月から毎週一回、養成所のない日に一緒に外出をしてたけから、今日は大丈夫なはず。そりゃ12月こそはちょっと不慣れな感じもあったけど、今じゃ普通に着こなして、初々しい中学1年生って感じだし。この分じゃ4月になっても新入生で通るんじゃないかなあ。

セーラー服はあたしが一回り大きなサイズに替えた機会に、中学入学の時に使ってた奴をミミ君にあげたってわけ。まさに「お下がり」ね。あたしが買い替えるのは入学時からの予定。だって、あたしに運があってメディアへの露出が増えるなら、それは中3時点だろうと思っていて、その時点でちょっとお古になったセーラー服ってわけにはいかないから。だから中1のときに使ってたのはまさに中1サイズ。それを余裕で着れるミミ君って、本当に肋骨が細くて薄くて腕も短いのよね。やっぱり女装がお似合いよ。

ともあれ、今日の撮影で普通に自然に中1女子だったミミ君はスカート卒業だね。っていうか、そろそろパンツ系とかいろいろなボトムズのミミ君が見たいな。スカートばかり履いていると、女の子ですらパンツ系の腰ー尻ー太腿ラインの露出が気恥ずかしくなったりすることもあるし、パンツ系ばかり履いていると、これまた女の子ですらスカートの捲れそうな感じや階段で下着を見られるリスクから恥ずかしくなったりするしで、ましてや女装のミミ君ならもっと恥ずかしく感じると思う。そして、そんな時にミミ君が見せる恥じらいの様子が可愛らしくて清涼剤になるのよね。元々は愚痴の相手だけで満足してたけど、可愛らしいミミ君を見慣れると、もうちょっと欲が出るんだなあ。お陰でいつもリラックスできるあたしは同期の出世頭を続けている。逆に、あたしが有望だからこそ、マネージャー氏もあたしに有益なミミ君の存在をフォローしているし。まさに正のスパイラルね。

そんな訳で
「ミーちゃん、最近はいつもスカートよね。たまにはパンツ系も履いてみたら?」
と、しれっとスカート合格を出してあげました。ミミ君はぽかんとした表情で
「え、パンツ系を履いても良かったの?」
と聞き返してくる。うん、そうよね、あたしの言い方だと、ミミ君が好き好んでスカートを履いているように聞こえるし。
「少し前に言ったと思うけど、もしかして聞いていなかった」
と更にシラを切って、ハイ、この話は終わり。

ちなみに、ミミ君はその後も10日程、外出はスカートでした。養成所への行きがけに追求すると
「学校で男装用具を使うようになったからか、ズボンだと皆の視線が股間や尻に向かうのを感じるの。その視線が恥ずかしいというか怖くなってなってきて。おかしいのかな、こんなの」
はは、ミミ君、その方面の恥ずかしさを取得したのか。恥じらいレベル3ってとこかな。それ、とってもわかる
「女の子はいつもそんな視線に晒されているから、ミミ君だけじゃないよ。それってバレてないってことだから。魅力的だから視線があつまるのだもの」
よし、今度は尻・股間のラインがぴっちりする系統のジーンズとかレギンスとか履かせようっと。それに慣れてもらったあとに、今度は尻と腰のくびれを強調するスカートを履いてもらおうっと。その度に恥ずかしがってくれるよね。


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