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アイドルは異性恋愛禁止

by 夢喰

1. スカウトされたら恋愛禁止だった

アイドルの養成部門にスカウトされた。

うんうん、あたしなら当然ね。クラスでも3本の指には入る自信があるし。あたしに気のある感じの男の子も数人いるし。ファン以上、片思い以下ってやつ。

そりゃ、格好いい兄貴のいるあたしには、みんな幼稚すぎて、誰とも付き合う気にもなれないけど、便利君として使って上げてはいるから、君たちのガキっぽい気持ちなんか筒抜けよ。

そんなあたしは、アイドルにスカウトされて当たり前。だからスカウトに出会う出会わないは偶然だって思って、売り込むなんてハシタナイことはしなかったの。それって自分を安売りしてるようなものだもの。

でもやっぱ、実際にスカウトされると嬉しい。だって、もう11歳だよ。来年には中学生にあがるんだよ。あたしの美しさと可愛さなら2〜3年前には声がかかるって思ってたのに、こんなに遅くなるなんて。だから、街でスカウトされた時、悩む振りをしても、アイドルになることは決めてたんだ。

でも、意地はって小学3〜4年の時に売り込まなかったのは損したかも。だって、スカウトって「応募するように説得される」行為ってことで、結局は自分から売り込むのと同じだし、よしんば面接(あ、その場にもスカウトのオッサンはいたんだけどさあ)で通っても、あたしより技能も頭劣る連中が先輩面して、顔が同じぐらいっていう理由だけでデビュー待ちの先順にいるんだから。

で、一回目の顔合わせというか、面接の時に言われたのが、恋愛禁止ってこと。うわ、すっかり忘れてた。中学に入ったら、今の同級生みたいな餓鬼ばっかりでなく、ちゃんとした男の子がいるだろうにって期待してたから。ああ、でも今はいないんだからいいか。彼氏候補が見つかったら、その時考えようっと。


養成学校って、頭の悪い子ばっかり。みんな、教えられたことは出来るけど、アドリブ力がないんだもの。だからあたしみたいに、想像力のある人間って直ぐに頭角をあらわすみたい。しかも指導者の要求するアクションとかで意図の分からないところは兄貴に聞けば男の子の視点できちんと解説してくれる。だから、3ヶ月で明らかな差がついちゃった。たとえば練習させられる歌が他の子より多かったり、合同稽古で、台詞と表情の組み合わせが一番難しい役を指名されたり、色々と。ハイライトは5ヶ月目、どさ回りレベルの舞台の端っこだけど、それに出させてもらった。もちろん同期の誰よりも早いし、聞けば、半年前の組でも、まだ半分しかその手の機会がないんだって。でも、よくよく聞くと、次の募集組への宣伝にするとか。たしかに「前回の募集の組の中から、その前の訓練生の順番を飛び越してデビューした小学生がいます」なんてやれば養成学校の印象もよくなるよなあ。

でも、そうなると、同性の嫉妬がすごくて大変なわけ。だって、それをなだめる方法が女のあたしにはないんだから。嫉妬をなだめることが出来るのは異性だけ。ラノベなんかの百合っぽい話で、可愛い女の子が同性の女の子の嫉妬をなだめるなんて話があるけど嘘っぱちも良いところよ。女の子の「可愛い」ってのが効くのは、男一般と、ずっと年上のお姉さん(年増のおばさんはきっと駄目)、年下のチビっ娘だけで、同年代の女の子に対しては逆効果しかないんだから。どんなに下手に出ようが逆に女王のように超然としようが、養成学校にはいってくるような「とくに嫉妬心の強い」女の子たちは懐柔できないの。

でも、指導者の言うには、嫉妬からのトラブルを防止するのもアイドルの仕事に一つだって。頭角を現すほどに増える練習ノルマとあいまって、小学校卒業前も中学の1学期も学校のクラスメートとか男友達とかを考える暇なんてなくて、いつしか夏休み。小学の同級生の誰がどこの中学に行ったという情報とか、中学の人気先輩情報とか、キープしても悪くないクラスメート男子とか全然知らないまま。

そんなだから、去年まであたしへのアプローチというか忠犬度というか、それが一番高かったミミ君(3月30日生まれだからミミオって名前だって)とかアキ君とかユウ君の姿がないことにずっと気付かなかった。なんだか便利君が減ったなあって思った程度。で、その彼らを思い出したのは、夏休みにばったりミミ君と街で出会ったから。糞真面目にも制服で、それも有名私学だったから、声をかけられるまで分からなかったけど。

久しぶりなので話をしたんだ。飲み物のスポンサーはミミ君のお母さん。そのまま、おばさんはこれ幸いと買い物に行っちゃった。店内を見ると、男の人たちがガキと荷物の番をしているから、要するにそういう場所で、男の子と2人きりになっても、同じ避難民と思われるだけ。中には私がマセた姉妹と思ってる大人も多いと思う。とりあえず、異性との接触っていう噂にはならないよね。

それにしても彼は嬉しそうだなあ、って、そういや彼もあたしに色目を使っていた取り巻きだったんだ。悪い悪い。話しやすさばかりが記憶にのこって、どうでもよい情報は忘れてしまうのよ。どんなに頭が良くても、その運動神経の無さと貧相な体じゃあ、男としての記憶は残らないからね。だって、身体測定で胸囲が男子で一番小さぐらいに華奢な体だったし、50mダッシュで肥満児の子にも負けたばかりかクラスの女子の大半にも負けてたし。

今だって彼女無しだろうなあ。ただでさえ、体のスペックが低い上に、中一って、女子は同級生より先輩に憧れ始める時期だし、唯一の取り柄の頭も、私学じゃあたりまえだろうし。

いやいや、それは小学校での話、今は少しはマシかもしれないと、憐憫を持って彼を見直しても、華奢な体は全然華奢なまま。きっと球技は今も駄目なんだろうな。あたしみたいに、公立にしとけば、まだ一芸でどうにかなったんだろうけど。あっ、でも、その身体スペックじゃあ、公立中じゃ虐められるかも。

そんな彼だけど、ちょっと話をしただけで、クラスでは一番気楽に話せた男の子だった感覚を思い出した。だって頭が良くて、あたしが何を言っても大抵理解してくれたから。今日もそう。クラスの子では理解してもらえないことも分かってくれるし。そればっかりじゃない。他校ということで学校内の愚痴も言えるし、同性からの嫉妬などへの愚痴も言える。

そのついでに、あたしが私立に行かなかった理由もいつの間にか話してた。私学だと、どうせ美人が集まってちやほやされないとか、そもそもアイドル養成で金食い虫だとか、「私学に移る必要があるぐらいに有名になる」ってのも目標のひとつだからだとか。

アイドル養成に行っているのは実はまだ秘密なんだ。だってデビューできずに終わる子も多い訳で、デビューできなかったら、あたしの容姿に嫉妬しているような女子クラスメートから大げさに馬鹿にされるの決まってるもの。まだ1年足らずじゃ、いくら出世頭でも、どさ回りレベルの隅っこの、たまたまマイナー局の放映が会った所で、映るかどうか分からない場所。テレビデビューまではまだまだ遠いの。

だから知っているのは担任と学年主任ぐらい。でも、ミミ君はよその学校で、しかもあたしに未だに好意を持っているのが見え見えだから、秘密は絶対守ってくれるでしょ。そんな意味じゃあ、彼って丁度よい愚痴相手? 便利だって思っちゃった。でも、それってアイドル事務所からは交際ってことになるのか。やだなあ。ま、とりあえず連絡策だけは交換しておこうっと。

そして2学期。運動会の準備で女子同士で駄弁っていると、もう話の4割は他人の「付き合っている」情報。そんな話ばかり聞いていると、見栄でも彼氏が欲しいなあと思ってしまう。何たって、あたしは「モテる」女の子なんだから。アイドル恋愛禁止条項の抜け道ないかなあ。でも、クラスメートは駄目で、同じ学校も駄目よね。どんなにこっそり付き合ってもバレちゃうし。

あと、切実な話、愚痴を言える友達は欲しい。愚痴相手だから、女友達は全部駄目。アイドル養成学校でいろんな物語や実例を頭に叩き込まれたけど、その結論はあたしの結論と同じで、要するに女の「親友」は恋バナでは信用するなってこと。

となると、思い出したのがミミ君。彼氏にはほど遠いけど、愚痴相手には便利。夏に会ったあとに噂にならなかったから、あの場所で会う限り大丈夫かもと思ったりもする。だから連絡を取ったんだ。というか彼からは週一ぐらいでメールが来るから、それに返事しただけだけど、直ぐに同じ場所で「偶然」出会うことになりました。


2. 同性の嫉妬って怖い。そのしわよせは彼に

ミミ君とは9月と10月に会ったんだけど、その2回目をアイドル訓練所の同期生に見つかって、チクられた。これだから同性の嫉妬っていやなのよね。

マネージャーに呼び出されて、何の用事かな、また訓練が増えるのかなって思いながら行ったら、いきなり
「男の子と会ってたでしょ」
って言われたものだから、しどろもどろで
「だってミーちゃん(とっさの判断で『ちゃん』で呼んだ)って、とっても華奢で運動ゼロで、全然男の子(異性って意味)って感じがしなかったから」
と、模範解答からほど遠い答えをしちゃった。あ、この答えは駄目だ、ってクビの危機を一瞬感じたんだけど、幸い、まだ訓練生ってことで
「はいはい、言い訳は良いから、今後は気をつけて。あ、連絡も事務連絡以外は駄目だよ。相手の携帯の履歴を誰かに見られるとかで、他人にバレる可能性があるからね」
という注意で済んで、とりあえず大事にはならずほっと一息。瞬間、現実逃避に「アドリブ力な足りないな」なんて思ったり。

でもちょっと困っちゃった。だって、彼以外に愚痴をこぼすのに良い相手っていないし、次に会う約束もしているし。とりあえずメールで今日の経緯だけは知らせておかなきゃ不味いよね。男の子とは会えない、っていうと、まるで人気アイドルみたいで、デビューすらしかなったら恥ずかしいんだけど。

っていうか、会えないってのも建前で、見つからなければ良いのよね。見つからないような場所(全然違う街とか)で会うとか、変装して会うとか。 

見つかってもチクられなければ良いのよね。羨ましいと思われないとか。相談のボランティアなのかな、とか。あ、嫉妬対策もアイドル訓練の一つってこういうこと? でも、でもミミ君なんか、まさに男の子って感じじゃなくって、羨ましがられるはずはないけどなあ。ああ、あの制服。そっか、容姿や運動能力じゃなく、単にエリート校の生徒と会っていると思われたからチクられたんだ。 

そんなことを考えつつメールを出したから、ついつい「男の子っていうか、男の子って分かる中学生とは会ってはいけなくなった」と書いた勢いで「あ、だから女の子に見えれば良いのかも?」
と続いて書いてしまった。送信して、うわ、恥ずかしいこと言っちゃった。腐女子認定されそうで怖い。

でも、ひょうたんから駒ってのはこういうことを言うんだね。真面目ちゃんの彼は、私のメッセージを「辛いから会いたい」と取ったらしく、翌日になって「女装って、どうやって?」という具体的指示を伺ってきたんだ。

そこからは、まあ、勢いというかなんというか。とにかく、流れをぶった切ったら全てがゼロになるという不安で色々指導しちゃった。あたしのお古やウイッグを渡す手だてとか(街でばったり出会って、私がかばんを置き忘れるという流れね)、彼が女装に着替える場所の提案とか(多目的トイレとか)、家での試着の自撮り写真があまりに酷いので指導する羽目になったとか。


いろいろあったのだけど、とにかく彼との「デート=愚痴聞き大会」は約束の11月にできて、あたしも嬉しいし彼も嬉しそう。あたしだって彼の愚痴も聞いてあげているからおあいこね。私学に入って、得意の勉強すら他人と大差ないと気付いて、自分の「特別感」が打ちのめされているらしい。うんうん。わかる。あたしだって、今の公立ですら一番の美人だとは思ってないもの。それを補うのが「アイドル能力」なの。

それにしても、あたしのお古が使える体つきってなによ。ほんとうに男の子とは思えないのねえ。ウイッグだけで女の子に見えちゃうんだもの。ウイッグとスカートの組み合わせだと、女の子「にしか」見えないのだもの。

とは言っても、やっぱり男の子で、胸囲っていうか肋骨の上の方はあたしよりはるかに小さいのに、その下はウエストに繋がるところはあたしより太くて、まさかあたしの2年前のスカートが入らないとは思わなかった。だから、試着の自撮り写真を使っての指導が始まったんだけど(彼の「きついけど大丈夫?」というメールから始まったんだよ)、女装に違和感のない体つきと、女装が自然にできる体つきって違うのねえって、思っちゃった。

2年前のあたしのスカート、ミミ君なら履こうと思えば履ける。でも、それは肋骨と骨盤の間の骨の無い所でホックをとめた場合で、それだとウエストが低すぎて、みっともない感じで目立つのよね。ミミ君の女装は、あたし達の「愚痴デート」が目立たないようにするためだから、地味で目立たない女の子じゃないと駄目なの。しょうがないので、昨年のスカートのうち、この秋にまだ使わず、今後もきっと使わないだろうな、って思った奴を渡すことにした。ついでにスカートに吊り紐を付けて、吊りスカートに改造。肋骨をゴムひもか何かで締めてもらえば完璧なはず。ミミ君には履く時に尻を少し膨らませてもらおうっと。

その成果が目の前にある。まだ声変わりもしていないみたいで、横隔膜を無理やり締めているせいか、その声もボーイソプラノほどに太くなく、ますます女の子に近い。これならばっちりね。ああ、でも、これから第二次性徴がはじまるんだっけ? 肩幅が広くなったら駄目よねえ。喉仏が出ても駄目よねえ。まあ、仕方ないのだけど、会って話すのを他人にみられても分からない程度にはごまかせると思う。

それはそうと、色々改善点あり。だって下に短パン履いているのは透けてわかるんだもの。せめてスパッツにしなさい。それがだめならブリーフ。あと、お尻。前は上手く隠したつもりだけど、横からみると、後ろの尻の膨らみと前の膨らみ(隠したって膨らむんだね、知らなかった)のバランスが悪い。前もって注意はしたけど、自撮写真でそこまでは分からなくて、彼に任せたらこの有様。なので、しっかりと尻パッド、っていうかお古のパンストの付け方を教えておいた。となったらやっぱり下はスパッツね。

あと、あたしからお土産。お母さんのガードルのお古の太腿のところを切った奴。これ、輪ゴムより幅広で、輪ゴムより薄くて、しかも口径が大きいから、何かを留めるのに便利なのよ。大切なものを梱包用のプチプチシートに包む時とか、輪ゴムじゃ強度が足りない時とか、いろいろ。だから肋骨を締めるのに試してみてね(ハート)。

その後、2回目、3回目とミミ君の女装は上達して、なんと、3度目は2年前の「ウエストの細すぎる」スカートも無難に履いて来てくれました。スパッツの代わりにレギンスだし。あたしのお古だけど、下着じゃないから恥ずかしくないし。うん、彼なら恥ずかしくないな。


同性の嫉妬って怖い。だってあたしと会った女装のミミ君を尾行して、なんと男装に着替えるところを調べられて、それをまたしてもチクられたんだから。女装の彼に会ったのは、まだ3回なのに。で、今日はマネージャーさんからの呼び出し。
「この子、前に会っていた男の子だろ?」

ふふふ、前回と違ってこっちも対策済みなのよ。
「妹って聞いていたけど違うの?」
とびっくした様子を見せる。マネージャー氏が一瞬きょとんとして
「ふわっふわっふわっ」
と笑い出した。成功? うんうん、この1年間のアイドル訓練で演技力には自信があるのだ。

あ、でもマネージャー氏、悪い顔をしている。
「ちょっと彼を女装した格好でつれて来てもらえない?」
は? 詳しく聞くと、女装が似合っているし、愚痴の聞き役はいた方がいいし、この際、女の子としてチームに加えようと思ってるらしい。

半年後に本音を聞く機会があったけど、チクられた当時、相手が女装して、しかもこっちはまだ人気アイドルでもなんでもないんだから全然問題なかったんだっって。そして、クチった子の説明によると、人目で男ってわからなかったみたいだったので、その歳で女装が上手いのは面白そうと思って会ってみることにしたとか。悪い顔してたはずだわあ。

んで、ミミ君をチームの下っ端に入れる件に関しては、着替えの場所だけ気をつければ良いみたい。着替えの必要が本格化する1年後までにクリアする条件は、彼が着替えるところを他の女の子が見ても気付かないようにすることと、私以外の女の子の着替えの場に居合わせないようにすること。そしてそれはマネージャーさんによれば可能だろうとのこと。(もしも使い物になりそうなら)チクった子とユニットを組ませると含ませることで、そっちも対策するんだって。チームメンバーってことだと秘密を守る立場になるし、あたしから名目上とはいえ彼氏を奪えて自尊心を満たして嫉妬による妨害は今後なくなるだろうから。純真なミミ君だって、あたし以外の女の子と親密になれてハッピーで、しかも2人いると監視というか辞めにくくなるというか。なるほどなあ。

とりあえずミミ君にどう話を持ち込むかだけど、マネージャー氏の言うには「マネージャー氏が会ってみたい」「こそこそしなくてもあたしに会えるように計らうらしい」という、嘘にギリギリならない言い方で誘えとのことで、次の「デート」にマネージャー氏が来る了解を取り付ければ良いらしい。確かに、これなら彼も乗るよね。


いよいよ当日になったんんだけど、そのまあ引き合わせたんじゃ面白くないってことでひと芝居打つことになっちゃった。マネージャー氏が「親戚の叔父さん」を装って、たまたまあたし達にばったり出会ったってことにして、その際にあたしがミミ君を「友達の妹」として紹介する流れ。ミミ君は、直後にくるはずのマネージャー氏とかち合うことを怖れて、きっと混乱するだろうけど、その時の反応を見れば、最高の面接試験になるとか。ブラックだああ。

で、マネージャー氏のターン。
「初めまして。さすがチイちゃん(あ、あたし千佳っていうんでチイちゃん呼び)の知り合いだけあって可愛いね。5年生? 6年生? それともまさか4年生?」
うわあ。確かに女の子なら6年生より5年生に近いかもねえ。男の子としても6年生の真ん中下ぐらいだから。ミミ君は早生まれの中でもチビだものなあ。
「あ、初めまして。田中ミミです。えっと(間があって)これでも6年生です」
えらい偉い、友達の妹っていうあたしの説明で、中一って言うのを避けたんだね。でも、これであたしの年下=下僕決定ね。ふふふ。

10分ぐらいおしゃべりをして、
「じゃあ、チイちゃん、そろそろ移動しようっか」
とマネージャー氏が切り出したところでミミ君はまたしても????な状態。いいねえ。とりあえずあたしがミミ君に「この人、親戚ってのは嘘で、実はうちのマネージャー。ほら、話してたでしょ?」
と説明してやっと納得してくれたのでした。

そのままデート場所からマネージャー氏の車で事務所まで移動しました。そこでようやく本題、マネージャー氏によるミミ君スカウト作戦。あたし達のチームへの参加を目指して訓練生になるって話ね。正式な公募面接(半年に一度、あたしが受けた奴)まで3ヶ月以上あるけど、この手の途中参加(最近の組は2ヶ月前に始まったばかり)は、あたしの組にもいたし。養成所って飛び級だってあるところだからね。

スカウト作戦はもちろん大成功。だってマネージャー氏の口説き文句が凄いのなんの。女装なんていう、普通だったらあり得ないような話も、その気になっておかしくない説得で、そこにあたしまで説得に加わるんだから、あたしに気のあるミミ君が迷わないはずが無い。最後は恥ずかしそうにしながらも、現状打破の切っ掛けとして乗ってくれることになったんだ。

うん、とってもよい現状打破よ。そう、あたしは思ったけど、マネージャー氏に言わせると、潜在的な女装体験願望(コスプレ願望に毛が生えたやつで、常時女装願望とは全然違うらしい)があるのだろうって。どうかなあ。

そのあと、母親(養育費付きの離婚母子家庭だっても知らなかった)のほうの説得もあたしとマネージャー氏の方からして、OK。母子家庭だけど毎年100万円余分にかかる私学に行っていることからも分かるように、元夫からの補助が大きいんで、アイドル養成所のコースの一部の月謝くらいはなんとかなるみたい。とはいっても、あたしが初年度に参加した4クラスの半分の2クラスしか参加できないけど。


3. 性がバレてはいけない訓練生

こうしてミミ君は2月から養成所の仲間になりました。パチパチ。もちろん、自宅を出るところから女装するようになって(アウターはスポーツ系でウイッグもショートカット系のフード付きだからご近所さん対策は問題ないみたい)、あたしも話をするのが随分と楽になったのです。あ、帰り道は例のチクりっ娘に任せることで手打ちね。でも、行きだけでなく、自由なプライベート時間にも会えるってのが大きいかな。

ちなみにアンダーは養成所まで行き帰りも女物ね。ブラジャーは使わずキャミかブラトップで、上にもう一枚羽織れば分からないって感じで。それだけでも抵抗があったけど、より増して説得(強制)が大変だったのがショーツガードル。よほどいやだったのか男物のビキニとか履いてくることもあったようだけど、そのたびにあたしが玄関で指摘したから(その為に迎えに行っていた)、1ヶ月で諦めてくれた。諦めさせるこつは、履かせるショーツをよりフェミニンにすること。ミミ君が自分で選べるショーツよりはるかにフリルとかが多い派手な奴だったからねえ。あと、中学2年になる前の心機一転っていうタイミングあったかも。

ショーツに慣れさせた次の段階は、下着姿になっても男だとバレないような細工すること。まずはあそこを隠すところから始めたけど、当然ショーツガードルとの組み合わせだから、こっちも自宅を出るときからして貰うことになり、ショーツガードルと同様に大変だった。それも1ヶ月かかった。でも、その次の偽尻というか偽腰は、あそこを隠したりショーツガードルの時ほどの抵抗もなく諦めてくれて、人って慣れるものだなあ、って思っちゃった。この偽尻(偽腰?)は養成所で手配してくれたけど、昔から色々な種類があるだけあって、技術の発達で、とても皮膚らしいやつだった。ちょっとパンチラしても、下から証明を当てるぐらいに明るくなければ簡単には分からないと思う。凄いと言えば、養成所での手配してくれたウイッグもそうで、長さを少しだけなら調整できる奴だった。

そういうこともあって、ミミ君は日を追うごとに可愛くなっていく。女物の服の着方だけでなく、スキンケアとか体型矯正とか、歩き方とか。さすが養成所に通うだけのことはあるよ。あたしだって「カワイイ女の子」として観客に魅せるための訓練を受けてきたからわかるな。頭の良いミミ君なら吸収するのも早そうだし。

なんだか妹が開花して行くようで嬉しい。っていうか、あたしは5月生まれだから、1年近く歳がちがうのよね。妹じゃん。あたしの兄貴があたしに協力的なのも、こんな気持ちなのかな。これが本物の女だとお姉さんとしては嫉妬するのかもしれないけど、異性って分かっているからそんな気もしないし。

ミミ君も努力しているみたい。だって今では養成所のないオフにばったりであっても、女物ボトムスから微かに透けるショーツラインは明らかに女物だし、尻や腰も自然に膨らんでいるから。普段から、下着はもちろんのこと、裸でも男とバレないような処理をして過ごしているんだろうね。

でも、女装を楽しんでいるという感じじゃあない。アイドル訓練生の先輩の目からみると、演技って分かるもの。それを見て、あたしも身を引き締める。あたしだってきっと未だに演技と分かるような可愛さなんだろうなって思っちゃうから。アイドルへの道は険しい。

ところでミミ君、学校はどうしているのかな? 女物の下着を着て、仕草が習い癖で女っぽくなってないかしら。
あ、まだそこまではやっていない。そうですか。
でも、いつかきっと。

悪い道に引き入れたかなあ。


6月になりました。薄着の季節です。ってことは、ブラトップ+薄いアウターになることがあるってことで、移動もホットパンツを使うようになるってこと。バレる危険が高くなる季節だけど、ミミ君のシルエットは、元々が中性的なのを、肋骨を締め、肩をすぼめ、腰や尻を盛ったお陰で、ユニセックスの服でも知り合い以外は女の子だって思うはず。だから自宅から出る時のミミ君は、いかにハーフパンツを履いてレインコートのフードで頭を隠しても、女の子のシルエットと雰囲気。実はご近所さんにもバレバレです。

でも大丈夫。2月から今まで、徐々に女の子っぽさを出してきたから、ご近所さんも「女の子になりたい男の子だったのかな」って思ってだろうね。知らぬは本人ばかりなり。

レインコートのフードが暑苦しくなった7月からは、ウイッグを隠すためのフードを外しての外出です。はじめはご近所さんに見られるのは恥ずかしいとか言って駄々をこねてたけど
「なに寝ぼけたこといってるのよ。とっくの昔のご近所さんはミミちゃんが女の子の格好をしていることに気付いているんだから」
って目を覚まさせて、お母さんにも応援してもらって、玄関から女の子の髪を晒してもらいました。ご近所さんに会ったけど、びっくりした様子はゼロ。分かりきっていたんだよね。その反応にミミ君は落ち込んでたけど、そんなメンタルじゃアイドルは無理よ。

なので、勢いで2週間後にスカートも履かせてみました。まだ去年履かせた吊りスカートだけどね。尻を盛るようにはなったけど、腰のくびれは未だになく、高い位置でスカートを履かせても、男の腰の位置までずれ落ちてしまいそうだし、女子小学生に見えるミミ君なら吊りスカートでも違和感はないし。っていうか、あたしが小学校の時のスカートが未だに余裕で通用するってのもねえ。

その格好で家から出て通りまで行く間に、2人ほどご近所さんらしき人に会ったけど、その反応は問題なし。ご近所さんはポーカーフェイスだっだのかもしれないけど、要するにそういうことだと思う。本人はうつぶせで歩いていたから分からないだろうね。ご近所さんにスカート姿を見られるのは、そりゃまあ、恥ずかしいか。だから、その後はなかなかスカートを履いてくれない。


こうしているうちに夏休みがやってきた。養成所では当然ながら水着撮影で「魅せる」ための講習があります。1回目2回目は室内で。3回目は海で。ミミ君をどうするか、マネージャー氏と相談しました。ミミ君は運動神経ゼロだから、アクション系・パフォマンス系・おバカ系は無理だけど、私立中学に行っているだけあって頭が良いから、演技系複雑ダンス系は有望で、有望である以上、バレないのであれば今年から水着デビューをさせたいんだって。

胸は問題ないな。去年の水着講習で同期の同年代の胸を見たけど、水着に完全に包まれて、肌の部分が本当に盛り上がっているのかどうか分からなかったから。13歳ってそんなもんよ。ミミ君の体は去年のあたしよりちょっと小さいぐらいだから、胸は水着で完全に隠せるね。股間もまあ色々隠す方法があるらしい。問題は腰ー尻ラインと、肋骨。

いくら矯正をしているとはいっても、まだ半年にもならないから、無理にアンダーを締めた不自然感が残るのよね。なので水着デビューするならワンピース一択だけど、今の時代にビキニを見せないのはアウト。ってことで、大事をとって、今年はパス。っていうか、水着がないってことはデビューが遅れるってことだから、同期生はライバルが減ったと思って喜ぶ筈だろうって判断もあるみたい。演技クラスとか中途で入って来たのに他を抜いちゃっているから、嫉妬のあまり男の娘だとバレてしまうリスクがあって、それを防ぐ意味もあるらしい。

でも海行きをハブるのはおかしいので、「見学」という名目でミミ君も海は行くことになりました。あと薄着が多くなるのでウイッグで誤摩化すのが面倒そう+夏なら髪は短いだろうってことで、一学期末に切らなかった髪を女の子カットにしました。夏は男の子に戻る必要がないし、男の子っぽい髪が必要になったら、それ用のウイッグをすれば良い、ということで(実物も見せたよ)、ミミ君も「仕方なく」カットに承諾してくれました。

でも、これが罠なのです。髪の毛が女の子になった以上、夏休みは女の子として過ごすのが「自然」なわけで、アウターも常時女の子らしくしてもらうことになりました。だって、女の子の髪型で、明らかに男ものの服を着る方が恥ずかしいじゃん。いや本物の女の子なら平気で男物の服をファッションとして着れるけど、いわずもがな、ミミ君には「練習のための女装」「男物の服の方が恥ずかしい」と何度も言ったので、ミミ君も、外出時は近所であっても女の子っぽい格好で出るようになりました。

そのくせ、未だにパンツ系、ユニセックス系を好むだよな。そんなミミ君に、重大な事実を告げました。パンツ系だと、体型から男バレの危険が高いってこと。つまりミミ君には、外出の度に、偽腰などで徹底的に女の子の体型にするか、スカートで誤摩化すかの2択しかないってこと。苦渋の選択の末に選んだのは前者でした。そして、ちょっと外に出る度に、それどころか、ちょっと玄関に出る度に、体型補正をし直すのは面倒なのよね。なので髪を切って1週間もしないうちに常時「女の子体型」を維持するようになって、男装は寝る時だけみたい。しかもスカートでなくても、キャミやブラトップにホットパンツだから、スカートよりも女の子っぽい。ふふふ。ついでに、声を女の子じゃないといけないってことで、毎日女子声を練習して貰っています。

もっとも髪の毛の件は誤解もあるのよねえ。だって女の子カットでも、アレンジの仕方次第で男の子でもおかしくない髪型は可能だから。だって、もともと男の子カットだったのを切りそろえたのだから、女の子にしては短いのだもの。でも、そんなことを教える必要はないし。


で、いよいよ海撮影の当日です。見学とはいえ、一応、ホットパンツと薄地のトップスの下には、ビキニを付けてもらっています。もしかして、これってミミ君のブラジャーデビューかも。恥ずかしそうにしていたのはそのためか。その割には、素直に着たなって思ったら、そういや、3週間前から「水着デビューを阻止するように頑張っているから」「協力しないなら、むりやり水着撮影させるから」って脅してたわ。ははは忘れてた。

海辺って日差しが強いわけで、薄地のトップスぐらいでは、その下は日焼けするのよね。しかもトップスをしている安心感から、紫外線クリームをつけ忘れる。そんなミミ君の上半身には見事のブラジャーの跡が残りました。本人はまだ気付いていないみたいだけど。だって気付きにくい位置にあるから。姿見で裸で後ろ姿を見なきゃ分からないだろうな。

一ヶ月で消えるのかな? それはもったいないな。だって、これからはブラジャーにも慣れてもらわなきゃならないもの。だってさあ、薄いアウターを着ている時は「暑いから」って理由で、ブラトップじゃなくて、薄地のキャミを着ようとするのだもの。女の子は、あの暑いブラを毎日してるのよ。贅沢言うんじゃないの。

だいたい、暑かったらキャミのかわりブラジャーだけ着けて、その上に薄地のアウターを着るのが正しいのよ。あるいはブラトップだけでアウターを羽織らないとか。それって女装アイドルになる訓練でもあるのに。もう。

だから、夏休みだけでも薄地トップスとブラジャーの組み合わせをやってもらおうと思ったけど、本人にはその覚悟がまだ出来てないみたい。もどかしいなあ。だって、ご近所さんはミミ君のことを性同一性障害か女装趣味か、そんな感じの男の娘っていう目で既に見はじめているもの。もっとも、そうは分かっていても、ブラジャーをしているところを見るのと見ないのとでは、ご近所さんの理解度が違って来るんだけどね。スカートデビュー(と言っても2回だけだけど)は済ましているのだから、問題ない筈だけどなあ。

プランBとして、プライベートに海に誘いました。あ、チクり娘との共同作戦ね。マネージャー氏のバックアップ(足)付き。要するにミミ君が男の子であるという事を知っている者だけの海です。海行きは、ミミ君にとってはあたし達「アイドル候補生」に外で会うってことだから、女装が前提で、水着も女装。そう、ついにビキニデビューなのです。せっかく買った水着がもったいないでしょ? それに尻を膨らませる人工皮膚というか偽尻というか、そういうグッズのテストって意味もあったみたいだし。こっちは養成所の提供。

はじめは恥ずかしそうにしていたミミ君だけど、水の中で尻を隠したとたん、バレる心配がなくなって急に活動的になりました。やっぱり男の子ね。水で遊ぶのは好きだったみたい。そして、その様子をみて、胸の方はバレないと思っていることも分かりました。その結果、ミミ君にはブラジャーの日焼け跡が見事に残ってます。


マネージャー氏が頭を抱えてる。
「これじゃ学校でバレてしまうよな」
言われてみればそうだけど、でもさあ、ミミ君が女装していること自体は広まっても構わないんじゃないの。だって、学校じゃ男子服なわけで、もしもテレビとかでちょこっと出てもメイクアップとかで全然分からなくなると思うんだ。そんな風に話したら、さすがマネージャー氏
「よし、方針が決まった。今後はミミちゃんは普段も女の子になってもらおう。君たちと会うのも今まで通りで大丈夫だろう」
ってすっきりした顔をしている。あ、もしかして学校バレはミミ君に悪いって思ってたのかな。

でも、話を良く聞くと、「性同一性障害」を演じてもらうってことだった。つまり、ときめく対象も男の子っていうこと。演ずるだけだけとはいえ、人権問題とかもあるから、デビューまでにしっかり話を付けないといけないらしい。今の段階でミミ君に直接説得するのは難しいけど、デビューを1年後とすれば、不可能では無いだろうとのことで、もちろん、その為にはあたしやチクり娘の協力が必要らしい。この道に引き入れた責任を感じるし、あたしのデビューにも関係するから協力にはやぶさかではないけど、ちょっと良心が傷むなあ。

とりあえず、ブラジャーに慣れさせることから始めることに。だから海のあと「ブラジャーの跡が透けて見える」「ブラジャーの跡があるのにノーブラで薄地のアウターを着たら、痴女って思われる」っ説得して、ブラジャーを常時着させるのに成功しました。スポブラだけど、だからこそ、ブラジャーなしでは恥ずかしいって思わせるのに良いみたい。ハードタイプなので肋骨を締め続ける効果もあるし。一種の洗脳ね。でも、そんな姿を見たご近所さんが当たり前の顔をしていたのにミミ君が気付いた時は、何度目かのにショックを受けていたみたいだけど。

ブラジャーの効果で、スカートにも抵抗がなくなったみたいで、「腰のラインを隠すスカートほうが男バレを防ぐ」て言ったら、諦めてスカートをするようになりました。髪の毛だって女の子カットだし、腰ラインで男ってバレる方が恥ずかしいものね。もちろん、今のミミ君の偽尻偽腰技術なら、パンツ系どころかタイツみたいなぴっちり系でもバレないと思うけど。でも、スカートはいい。だって、下着が見えない歩き方、意識するんだよ。それが無意識にできるようになったら、女の子の歩きかた、女の子の座り方合格ってことで。あ、吊り紐なしね。肋骨が細くなったので、ずれ落ちる危険が減ったのと、偽尻の技術が上がったのでずれ落ちても男子の腰の位置までは落ちないから。代わりに、常時スカートの高さに気をつけるようには言っているし、大抵はあたしかミミ君のお母さんがいっしょだから、ずれ落ち方が酷ければ気付くでしょ。

それにしても、ブラジャーのサイズに全然問題なかったのは驚いたなあ。65AAって、アンダー65ってことよ。それよりちょっと下の、肋骨の一番細いところが60センチってことよ。学生ズボンの市販品は一番細いサイズですら胴囲61センチなのよね。そのサイズよりも恐らくミミ君は細い。中学2年だっちゅうのに。

この半年、ミミ君がしっかり肋骨を締めてきたことがわかるわあ。とはいえ、まだ普通の女の子ほどには下すぼりじゃないから、上の方は普通の女の子よりも細い訳で、胸囲というか脇下はあたし達より細い。背も少し伸びたとはいえ、まだあたしが勝っているし。要するにあたしより小柄の「可愛い妹」なのです。

肋骨が細くなったせいか、未だに声変わりをしていない地声が女声アルトに近づいている気がする。男の声が低くて太いのは肋骨のせいで、肋骨の下が角笛のように細くなっていたら声が軽く高くなるのは当然なのよね。木琴鉄琴のパイプが短いほど音が高く、パイプの直径が短いほど音が軽くなるのとおなじで。喉仏はそれを強調するだけで、あまり重要じゃないの。そんな素地のなかで毎日女子声の練習をしてたら、一気に女声が板につくよね。しかも可愛いアイドル声が。この勢いで上手くなられたら、体格のよりよいあたしより可愛い声を出すようになるかも。


4. 秋はイメチェンのチャンスだけど、アイドル訓練生は中途半端

夏休みの間に急速に女の子らしい体型になって、急速に可愛らしい女声になって、急速に女の子の動作になって、スポブラを着けるようになったミミ君。骨盤が男の子でもキミはすっかり女装趣味の男の娘ね。同級生はその差にびっくりするだろうな。学校の体育の着替えで注目されること間違いなし。そしたら、ブラジャーの跡はもちろんのこと、肋骨が細さ(括れって言ってよいかな)も気付かれるだろうな。ってことはだ、彼がクラスメートから性同一性障害って認定されるのは自然な流れであって、あたしやマネージャー氏の責任じゃないよね。

こうなると、2学期前に髪の毛を男の子のそれに戻すのがもったいなくなる。だから、あたしはチクり娘と計って、彼が散髪を養成所の帰りにあたし達の知っている美容院でするように説得しました。名目はウイッグの使いやすい髪型を教えてあげるってところ。いや、これ嘘じゃないよ。だって、ロングヘアーのウイッグも使える可愛い髪型って限られて来るし。

養成所の帰りなのでミミ君は当然女装。今じゃスポブラはデフォルトでスカートの日もたまにあるから、その意味じゃ完全女装。そんな格好の日を狙って美容院に行けば、どんなに「短く」「ウイッグは使いやすい髪型」って言っても、出来上がりは女の子カットなのよね。ミミ君は出来上がりの髪型をみて「えっと、もっと短く」と言っていたけど、女装しているという自覚と、それをバレたくないという羞恥心で「男の子カット」とは言い出せず、とうとう「短髪のスポーツ少女」の髪型にしました。可愛いなあ。

美容院を出たあとは少しショックを受けてたみたいだけど、あたしとチクり娘で「男の子にみえるから大丈夫よ」「そのほうが今流行の中性的な美男子って感じだし」とかフォローしてなんとか納得してもらったの。だから、さすがにもう一度男装で床屋に行くってことはなかった。散髪代だって馬鹿にならないし、母親もミミ君のことを性同一性障害かもって疑い始めているし。

2学期になった時のお互いの「学校愚痴」の中身が楽しみだわあ。


2学期になって初めての養成所クラスの日に迎えに行ったら、何故かユニセックスのアウターに、下はタンクトップに近いシルエットのブラトップになっていた。これは学校でなにか言われたな、と思いつつ理由を聞いたら、案の定、同級生の女の子から「先週の○曜の夕方○時ごろ、○○通りを歩いてなかった?」と声を掛けられたそうだ。ははは、バレてるバレている。きっと1学期の末のミミ君の体型から疑念を抱いていたのだろう。しかも夏コミでお姉さんとかが女装男子の薄い本とか手に入れていいるかもしれない。そんな時に、今のミミ君の男の娘ぶりを見たら、もしかしてって思いつつも、『まさかミミ君がねえ、きっと妹か親戚なのよね」とでも思い直したのだろう。それで気になるのは当然よね。

もちろんミミ君は「違う」って答えたらしいけど、きっとびくっとした感じの答え方だった筈で、疑問は残るよね。それはミミ君も分かっているだろうから、この格好なんだね。でも「今、ミミ君だとわかる、その格好で、下手に養成所に入って行くところを見られたら不味いんじゃないの」って忠告したら、あっ、という顔をしていた。まあ、今日だけは回りに気をつければよいか。とりあえず解決案をだしておく
「それより、変装を完璧にしたほうが良いんじゃないの? そのほうが演技の練習にもなるし」
ついでに定番のサングラスは
「サングラスなんてのは皆に注目を浴びるアイテムだから却って目立つよ」
って脅しておいた。分かる人にはミミ君と分かる格好だから見ている方は面白いわけで。

問題の髪の毛だけど、こっちは咎められなかったって。「君、その髪の毛」とまでは言われることも何度かあたったらしい。でも、その後は「あ、いいよ。清潔感が出ていれば」って言われたってオチ。ミミ君は「なんだか、ぎりぎり校則には引っかからなかったみたい」とか言っていたけど、違うと思うね、お姉さんは。ミミ君がそういう系統の男の娘だって悟ったから髪型を黙認したんだと思うよ。

次の養成所の日は、アドバイスに沿ってミミ君はしっかり化粧をしてきました。更にロングヘアーのウイッグをして、付け睫毛までして。うん、そっちの方がいい。妹はまた一皮向けて可愛くなって、お姉さんとしても嬉しいな。っていうか、はじめからそんな風にしていれば近所の人にも、ミミ君じゃなくて知り合いって思われたかも。だってあたしも毎回来ている訳だし。そう言ったら、いかにも失敗したって顔をして
「あっ、そっかー」
て口に出してたけど、でも、長い目でみたらいつかはバレる訳で、今のように近所の人に徐々に「学校は男子だけど他の外出は女装」
って思わせるようにしたほうが無難じゃないかなあ。そう説得したら、さすが男の子、理詰めだとちゃんと
「確かに、今の方が理想的かも」
って納得してくれた。

ってことは、ミミ君も近所に人への女装バレについては慣れてしまったってこと? へえ、意外と早く慣れるものね。


その日の行きがけの雑談でももう一つニュースがあった。始業式の翌々日、保健室に行くように言われ、そこでなぜか身体測定を受けて、そのあと悩み事がないか聞かれたらしい。身体測定で春より体重・胸囲とも減っていたから、心労のせいじゃないかって心配されたんだろうと思って「ちょっと色々あってダイエットすることにしたので」と答えたら、納得してくれたって。ははは、ミミ君絶対それ誤解される答え方だよ。

ニュースはまだ続いて、その際に背中の日焼け跡に気付いてるかどうか聞かれて面食らったって。正確には、
「体を細くするのに、何かで締め付けていない? 例えばブラジャーみたいなの」
ってピンポイントに聞かれたみたい。そりゃ聞かれるよ。だって、体重と胸囲を測ったってことは、下着のシャツも脱いでいる筈だから。
「裸になったらブラジャーの日焼け跡がバレるのは当たり前でしょ?」

っていうか、ミミ君、自覚してるよね? だってミミ君がスポブラ着け始めたのって、あたしが水着の日焼け跡の目立つことを何度も言ったからだからさあ。
「う、うん。それはものすごく気にしているよ。だから体育の時も下着のシャツは着替えないし…」
あ、ちゃんと自覚してるのね。
「…保健室でもそうしたし。でも、バレちゃったみたいなんだ」
「どういうこと?」
「胸囲を測った時は下着のシャツ越しで、そのあとは、衝立ての影で体重を量ったのにバレたんだって」
「シャツ越しなら、日焼け跡なんて分かるはず無いけどなあ。ブラジャーのシルエットとは訳が違うのだから」
「うん、そうだよね。きっとそうだよね」
ミミ君もそう信じて、知らないで通したんらしい。

でも、ちょっと待って。もしかして夏用の薄いシャツならそういうこともあるのかも。だって肋骨が細いって、要するに締めているってことで、保健の先生は、はじめから疑った目で見ていただろうし。そこからブラジャーの連想は大人の女の人なら出て来そうだし。
「先入見をもってじっくり観察したら、『もしかして』と思う程度の跡がシャツから感じされたのかもね」

あ、ミミ君絶望した顔をしている。そりゃそうか、体育の着替えでも下着のシャツを脱がずに体操服を着ているものの、そのシャツで隠せなかったらあまりにも恥ずかしいから。うん、わかるわかる。
っていうか、これはいけない。フォローしなくっちゃ。
「大丈夫よ、保健の先生のようなプロならではの技で、普通はそんな事はないから。それに、そんなプロでも、カマを掛けるのが精一杯だったんでしょ」
「カマ掛け?」
そんなの決まってるじゃない。一学期に比べると、髪の毛にしても仕草にしても、少し位置が高くなり始めた括れの位置にしてても、女の子っぽさが増しているんだから、保健の先生なら怪しいって思うって。

って、それを言ったら女装止めちゃうかも知れないから、ここはフォローその2
「ほら、保健の先生って、女装とかのカミングアウトした子をサポートするのも仕事の一つじゃない。だから、カミングアウトを引き出して、ブラジャーをしても恥ずかしくありませんよ、って言おうとしたんだと思うけど」
「そ、そっか。じゃあ、ずっと否定したボ・・・わたしって、チャンスを逃したのかな」
「きっとまたチャンスがあるわよ。それはそうと、明日、シャツから透けて見えるか確認したげようか?」
「ホント? ありがとう」
どうやら、ミミ君もちょっと安心したみたい。

あたしにとっても、今の段階でミミ君の女装とアイドル秘密訓練がクラスにバレるのは不味いし。だって、下手にバレたらアイドル養成所も止めかねないもの。もちろん女装もすっぱり止めてしましそうだし。そうなったら、あたしの愚痴を聞いてくれるだけでなく、普通の人では絶対にあり得ないようなオモシロイ悩み、例えば今回のような悩みを持ち込んでくる癒しがいなくなる。今じゃあたしも本格デビュー手前で、どさ回りレベルなら常に一列目、なんとテレビ放映されるようなイベントでも再後列で踊らせてもらえるし、学園もの番組のエクストラとしても引っ張りだされることが増えて、同期の羨望を受けてストレスが溜まりやすくなっているんだ。

なので、翌日ミミ君のところで、実際に男物の下着シャツの薄地を着てもらいました。それで後ろ姿をみたのだけど、ミミ君に水着とスポブラの日焼け跡があるとあらかじめ知っていれば、うっすりと違いが見えるかもしれないけど、ぱっと目には分からないなあ。
「全然大丈夫よ。はじめから日焼け跡の存在を知っているあたしですら、じっくり観察してやっとそれかなあ、って感じるぐらいだから」
そのあと、お母さんにも見てもらって同じ証言を得て、やっと安心してくれました。


今回のことで、どんなきっかけでミミ君がアイドル養成所をやめるか分からないというリスクを感じたので、マネージャー氏に相談しました。ミミ君なら、デビューさえすれば責任感から止めにくくなるだろうし、奇麗な服で「変装」している自分が皆の脚光を浴びているという高揚感を覚えれば、責任感とは無関係に、たとい女装バレしれて続ける可能性が高くなるだろうから。だって、あたしがそうだもの。普段のあたしが脚光を浴びるのは、休まる時が無くて疲れるけど、ステージで脚光を浴びるのは快感で、その切り替えが衣装にあるって気がするんだ。ならミミ君も同じ筈。

そんな話をメネージャー氏とした所、なんと来年1月の新シーズン開始を機会に、彼を中学生ものの学校ドラマのエキストラとして使い始める方針だって。ステージより、俳優系のほうが向いていそうだから。もちろん女の子役で。普段着の女装が増えた今のミミ君なら、エキストラ程度の女装は人権問題にならないだろうから、今がチャンスだって。

さすがは切れ者のメネージャー氏だ。ちゃんと考えてくれていたんだ。優先して使う予定の中学校ドラマは、アイドルの宣伝と、何処かの女子校のステマとして、女子校の良さを宣伝するために企画されたものらしく
「女子校だから、男っぽい振る舞いも許される」
「男の目がないから、性別役割分担という呪縛から自由になれる」
というキャッチフレーズの番組らしい。学校の宣伝だから、受験先を決める来年1月までの1年間全50回が目標だけど、視聴率が低くければダメージの出ないように6月で切るそうで、とりあえず25回。撮影は11月から。

主役級には某劇団の出身者ややんちゃ系俳優を使い、残りは研修生レベルの新人アイドルをそろえるというもの。そのために、毎回異なる「クラスメート」をクローズアップするらしく(平均で毎回1〜2人売り出すらしい)、それが25回となると40人近い無名新人・研修生を宣伝できる。そのかわり、エキストラも同じ所が無償で準備することになっている。高校ドラマならボランティアでも良いのだけど、中学となると保護者の承諾とかいろいろ面倒なのだそうだ。

それに加えて、背景画面と背景会話の為の「モブ」も40人ほど確保する。もちろん、他の事務所と合同だから、うちの枠は合わせて15人ぐらいだけど、そのうち嫉妬の対象になるのはクローズアップされる組で、背景組は嫉妬されない。しかも、ミミ君はアイドル枠でなく「演技クラスの優等生」枠なのだから、ステージでなく、こんな簡単なチャンスですらモブとしてしか使われないなら、嫉妬どころか同情すらされるかも知れないそうだ。っていうのも、ミミ君の演技の成績って良いみたいだから。そりゃそうよね、訓練時間だけでなく休憩時間すら「女の子」を、それこそ命がけで演じているのだから、上手くなるだわあ。

え? あたしとミミ君とチクり娘のユニットはどうなるかって? もちろん続行よ。だってあたしとチクり娘も同じ番組に出るもの。大体3人固まった位置で、主人公の下級生役としてね。さすがにクローズアップされる役は取れなかったけど、代わりに台詞やスポーティーな動きが25回の番組の半分近くあるんだ。全部でほんの数回しか台詞のないミミ君(あ、でもアドリブはいつでもOKだった)とは1年の年期の差があるのだよ。


5. クラスメートって意外と何も気付かない、本人だって意外と何も気付かない

そんなこんなで怒濤の9月上旬が終わり、早くもシルバーウイーク。人は慣れる存在らしく、ミミ君も平穏にしている。変だなあ。だって普通の中学生なら
「ねえ、その髪型、ちょっと可愛いんだけど、どの美容院? あたしも試したい」
と探りを入れたり
「おまえ、仕草が女っぽくて気持ちわりー」
とか言うに決まっているもの。そうなったら、それに対する愚痴をミミ君が言わないはずがない。言わなくても表情に出さないはずがない。

もしかして、クラスメイトはミミ君を腫れ物扱いにすることに決めた? さすが進学校。皆さん、上品でいらっしゃる。

まさか気がつかないって事はないよね? 保健室の件もあるし、もしかして、ミミ君って学校ではきちんと男の子を演じて、気付いたのが先生と女子の一部だけって……。可能性はゼロじゃないか。そういや、ダンスの訓練で身のこなしが良くなったしなあ。でも、あれは女の子の媚をも演出する振り付けだから、男の子っぽい動きは無理だと思うよ。

分からないから、ミミ君の学校の運動会をこっそり見に行くことにしました。それでクラスメイトが気付いているかいないか、ミミ君が男の子っぽくしているかわかるだろうから。残暑対策で10月中旬らしいから、まだ半月以上あるけど、楽しみ。

ともあれ、私と会う時のミミ君は、女の子っぽさが増している。手や足の仕草がより自然になって、化粧やウイッグも、ナチュラルメークも近いって感じで普通の女子中学生を超えるレベルに進化している。それは体つきや佇まいも同じ。中学2年だから、背が伸びるのを心配してたけど、背は150cmであたしより低いし、胸囲は細いままで、その下の肋骨全体となると以前より細くなったくらいで、ブラジャーは、65AAどころか子供150サイズですらスカスカ。これなら小学6年生の女の子で通用するよね。

よくぞこんなに細くなったというか、過去2年間太らなかったというか。もしかして食事が少ないとか、ありうるありうる。学校以外じゃ肋骨を締めてつけているから、胃が小さくなっているはずだし。肋骨が下に向けて細くなっているから、肩も自然と下がって奇麗ななで肩だし。このまま頑張れば背中のシルエットだけなら女の子として通用するかも、いや、もうちょっと頑張って、真後ろだけでなく斜め後ろからでも、魅力ある女の子の背中になってほしいなあ、って、これはあたし自身の願望でもあるけどね。ミミ君の背中をみて、男の子でもここまで女の子っぽくなれるなら、女の子のあたしは「魔性の背中」を目指せると思う。

こんな具合に、ミミ君の上半身は文句無しに女の子なのだけど、下半身が追いついていないのよねえ。ズボンの時は、水浴の時に使った偽尻を使うようになって、一応は女の子に見える腰ー尻ラインになったし、尻の動きもかなり自然になってきたけど、スカートになると、「ふっくら感」が全然足りない。夏の間は「スカートの方が誤摩化せる」という口車に乗って、偽尻を使ってスカートを履いていたけど、肋骨が細くなって腰のくびれの位置が上がった、というかスカートの正しい位置を覚えたことから、夏より膝上の露出が増えて、偽尻の継ぎ目が露出しかかるようになり、それが怖くて偽尻が使えなくなったみたい。その結果、養成所に行く時の服でスカートの頻度がなかなかあがらないという悪循環に陥っている。言い換えれば、そのくらい下半身ラインの不十分さは本人も自覚し始めたってことで、自覚自体は良いことなんだけどね。何か良い方法は無いかない。偽尻の継ぎ目の目立たないタイプがあれば一番なのけど。


それはともかく、今日は大切な日。そう、学校ドラマの企画が正式に通ったので、そのエキストラのメンバーとしてミミ君を使いたいってことを、マネージャー氏がミミ君に打診する日なんだ。ドラマ自体の準主役級は既に決まっていて、残りは背景モブだけなのだけど、立候補制にせずに、要請の一環として利用すべく、事務所側で指名するんだって。その発表は企画が通った時なので、それまでは秘密というか根回し期間。そしてミミ君の根回しが今日。あたしと例のチクり娘を含めた3人ユニットを呼び出して、3人一緒にってことで。

もっとも、あたしとチクり娘は事前に話を聞いているけどね。でも、それはミミ君対策の根回しとしてであって、表向きは、あたしとチクり娘も、今日初めて聞いたような振りをすることになっている。ついでに、そのままミミ君に「一緒にやろうよ」と背中を押す役をすることになっている。チクり娘は「そこまでしなくても大丈夫だろうに」って言ってたけど、あたしの予感は、背中を押さないと駄目だと告げている。だって、これを受けたら女装を続ける「責任が生まれる」って彼ならきっと思うものね。実際、マネージャー氏だって撮影が始まったら
「少なくとも撮影中は、他のエキストラ等への女装バレは避けてほしい」とか
「運悪く女装バレしても、途中で抜けられると皆が困るので、バレた人に口止めをして欲しい。もちろんこっちも協力する」
っていう圧力を少しずつ掛ける積もりだったみたいしね。

ミミ君が女装を始めたのは、あたしを助けるためと、あたしと一緒にいたいためで、その女装がエスカレートしていることに戸惑っているってのが、あたしにはよくわかるもの。ようするに女装を嫌々ながら「義務」でやっているって感じ。だから普段着でも手を抜かないけど、目に見えないところ下着、特にショーツは嫌がるわけで。

案の定、ミミ君は渋りました。でも、あたしが
「今まで半年バレなかった」
「夏の薄着のときでも大丈夫だった」
「近所の人はミミ君の普段着女装に既に慣れているから騒がれない」
「あたしもミミ君が一緒の方がのびのび演技できる」
と説得して、やっと折れてくれました。「男に二言は無い」って中二病的に思っているから、もう大丈夫なはず。

それにしてもミミ君って真面目。だって、あのあとずっと女装バレの不安をあたしに言って来るのだもの。そして毎回改善点を聞いて来るのだもの。あたしが「ネットに色々情報があるんじゃないの」といっても、ミミ君が調べる限り、女装男の自己満足な説明や女性ホルモンの説明ばかりで、仕草や体格の正しい補正について、役に立つ情報が無いとのことで、女の子から見て自然かどうかが気になるんだって。

そんな細かいことなんて私にも分からない。とりえあず、褒めたり、ちょっとした改善点を言ったりしている。ああ、でも、一つだけ大きなアドバイスをしてあげたな。それは緊張の抜けた時でも、腰つきや上半身のシルエットから、男だとバレないようにすること。そのために、出来るだけ常時、偽尻とか下着とか着用して、女の子のシルエットを自然に作るようにすること。というのも、折角夏休みに偽尻を使い始めたのに、9月の保健室バレ事件以来、家で外すことが多くなって、近所に出る時ですら、制服で帰って直ぐのときは男の格好のままだってミミ君のお母さんが言っていたから。そういう「弛み」がいけないというアドバイスね。

で、警告ついでに、もっと極端な女装を薦めてみたりして。だって夏休みに比べて学校時間での男装が長過ぎて体型補正が失敗しかねないもの。具体的には
「制服ズボンはゆるゆるだから、下着のパンツのその下にショーツや偽尻をつけても大丈夫でしょ?」
「もうすぐ冬服だから、肋骨コルセットを再開できるよね?」
と発破をかけました。全部の実行は直ぐには無理だろうけど、いずれ考えてくれれば良いという意味でね。ふふふ、こういう風に、一歩一歩、ゆっくりと完璧な女の子に近づけるのがコツです。だって、こんなアドバイス、半年前なら、女装そのものをきっぱり止めてしまうきっかけになりかねないほど現実離れしていたもの。

案の定、真面目なミミ君は、私のアドバイスを真面目にとってくれました。なんと9月末には、ブリーフに比べて目立たない色のショーツガードルと偽尻を体育の無い日にブリーフの下に履くようになってくれたのです。そして、帰ったらズボンとブリーフを脱いで、直ぐに女物のスボン(前閉じ)やジーンズ(立体裁断)に履き替えているそうです。実際、養成所の無いない日にアポ無しで突然お邪魔したら、女物のジーンズを履いていて、しかも腰のくびれから膝まで、奇麗に女の子の曲線を作っていたし。もちろん股間も凹んでました。この分なら、学校でも股間を凹ましていると思う。

これは祝うべきだと思って、「デビュー祝い」の名目で、前閉じ・左ボタンの女物パジャマを贈りました。ジャージセットなんでお姉ちゃんは許さないよ。もちろんその場で着てもらいました。当然、ショーツと偽尻も要求する訳で、それを見越して夜に訪問したから、真面目なミミ君は、きっと、そのままの格好で寝た筈。

確認のため、一週間後の夜に「用事があるふり」をして訪問したら、ちゃんとあたしのプレゼントしたパジャマでした。尻もちゃんと丸みを帯びていたし。そして、それがきっかけかどうかは知らないけど、体育のある日も、ブリーフの下にショーツを履くようになったみたい。流石に偽尻はバレるのが怖いらしい。スカートで覆い隠しても露出しそうなのだから、これは仕方ないか。


そんなこんなで10月中旬。ミミ君の学校の体育祭に来ました。うちの中学とは週が違うので見に行けたけど、さすが私立だわ、うちより少し体格がいいし、なによりお上品。これならミミ君の仕草でも目立たないかな、と思ったら、ほんと、埋没してました。そりゃ、確かに髪型だけは少し違うけど、別の意味で違う髪型は色々いるし、体格が小さいから、体型に少し女の子っぽさがあっても目立たないし、中学2年じゃ、女子が男子にむやみに話しかけないのも不思議じゃないし、男子で目立たない子がいてもおかしく無いし。そっか、ミミ君に気付かないというより、ミミ君の事はどうでも良いんだ。触らぬ神に祟りなしで、他のもっと面白いことを追求しているんだ。じゃあ、もうちょっと女の子に近づけても大丈夫だね、というか、どこまで近づけたら「女の子っぽい」と認識されるか興味でてきた。

体育祭の翌日には、例の女子中学校ドラマの企画に参加するメンバーが背景会話役を含めて発表されました。あたしとチクり娘は背景以上の台本会話も一言二言あるとかないとか。

スポンサーに入っている私立学校はブレザー系の制服だけど、中学生ものということで定番のセーラー服。だからこそ、エクストラは、スポンサーの学校の生徒さんを使わないらしい。まあ、そんなことはともかくセーラー服。当然、ミミ君もスカートに慣れなくちゃならない。今までは体型補正という「基礎」に集中していたからパンツ系が多くてもほとんど何も言わなかったけど、これからは女子校制服という「応用」編になるから話が違ってくる。

なぜ、内定後今までスカートを無理やり履かせようとしなかったか? 一つには渋るミミ君をやっと説得したのに、ここでスカートを強調してやる気を失わせたくないから、もう一つは、基礎、つまりパンツ系でも女の子っぽさが出せなければスカート履いても、日常はともかく撮影ではぼろが出るからリスクがあるから。でも、これは、マネージャー氏からのデビュー祝いで解決しました。

それは新しいタイプの偽尻と、それと連動する偽股間。偽尻は腿まで覆うので、しっかりと骨盤から内股にするように強制するんだって。足だけを内股のするのと違って、自然な内股が作れるし、これに股間を抑える偽股間を併用すると、股間の集中線が漏斗上に凹んで女の子ぽくなるみたい。普通の女装って、股間を隠してもパンツ系だと股間の角度が不自然なのよね。しかも色がミミ君の肌色にマッチしているので、膝のしわしわ部という部位をあわせると、つなぎ目がますます目立たなくなる。ただ、まあ、男たちの視線もそこに集中するんで、スカートの時はニーソックスを履くのが無難だけど。ともかく、これでミミ君がスカートを履かない理由は無くなったんじゃないかな。しかも、学校の方が冬服に更衣する今がタイミング的にも丁度良い。

というわけで、改めてミミ君に
「これでようやくスカートが心配なく履けるよね。そろそろ撮影で使う制服を着こなす練習も必要だし、今後はいつもスカートを使おうよ」
と言ったら、ミミ君も気にはしていたようで
「やっぱりそうかあ。大丈夫かなあ。でも今更やめられないし」
とちらっと上目遣いであたしを見る。
なにこれ、いつのまにか、そういう仕草も覚えたの?
「大丈夫、今のミミ君なら簡単だから。だけど慣れ始める必要はあるね」
「ううん、わかったょぅ」
と嫌々ならがらも、スカートに慣れる訓練に同意してくれました。真面目なミミ君だから、同意以上の約束は要らないのです。

早速、訓練所の帰りをスカート姿で帰宅する訓練から始めました。付き添いはチクり娘ね。何回かやったあとに、チクり娘に話を聞くと、おどおどしていたのは2日だけで、その後は自然に行動していたらしい。椅子の座り方や歩き方、手の動き、ことある毎のスカートの触り方など、可愛らしさにはイマイチだけど、一応疑いをもたれないレベルだったとか。

でも演技をする者として、それでは全然だめ。なので、特訓と称して10月末からは訓練所に向かう時も毎回スカートにさせました。何度もチクり娘に駄目出しされるうちに、自然さ不足をミミ君も自覚するようになったみたいで、自宅を出るときも、渋々ながら毎回スカート姿になりました。近所の人はいまさら驚かず、中には
「これから習い事ですか」
と挨拶して来るオバさんもいるのよね。恐らくミミ君の母親から漏れたのだろうけど、急速に広がるのも問題なので、あたしは
「秘密の特訓なので秘密ねおねがいします」
と答えてミミ君をフォロー。だってミミ君は仕方なく女装しているのであって、回りの見る目を気にしていて、それが余りに急にかわると、ミミ君はついていけなくなって女装に非常にネガティブになりねないから。

ともあれ、そういう対応をあるとミミ君も開き直れるらしく、11月半ばには
「秘密ですよ」
と指敬礼ウインクをする余裕まで出てきて、同時にスカートでの「女の子」仕草が上手くなっている。演技がうまく行けば女装を楽しく思ってくれるかもしれないのだけど、いや、でも、こうして恥ずかしがりながら女装しているミミ君が癒されるのであって、ノリノリで女装されるとちょっとねえ。そのあたりの手綱はあたしが握るべきよね。

でも、それ、ミミ君にとっては悪手よ。だって、そんなことしたら、近所のオバさんがミミ君を性同一性障害と信じ込むかも知れないし、そうなったら、その誤解がミミ君のお母さんに伝わって、ミミ君のお母さんすらミミ君が女の子になりたがっていると誤解するかも知れないから。というか、その誤解、半分近くすすんでるし。実際、3カ月後、ミミ君のお母さんから、新学期から女の子として学校に通わせる方がよいかの相談を受けたし。


動作に自信が生まれるほど、体型が気になるらしい
「わたし(スカートを常用するようになって以降、私の前でボクとは言わない)ってやっぱり体型や足の角度が不自然よね」
と不安を述べる。向上心があって宜しい。

たしかに、足を自然な内股にするのはかなり難しいらしい、単純に内股にしても、太腿まで内股にはならないから。それはデビュー祝いの新型偽尻でも完全解決ではなく、夜間に膝から上全体を矯正し続けないと難しいらしい。そんなことをマネージャー氏が言っていたのを思い出して、2人してマネージャー氏と相談すると、翌週、股角度矯正器を渡してくれました。新型偽尻を開発する際の副産物だって。もちろん矯正効果は偽尻より強い訳で。

要求したものを貰った以上、真面目なミミ君は毎晩それを着用するようになりました。そればかりは家にいる時は昼間も着用しているようで、一カ月後には確かに足の運びがより自然な女の子のそれになり、副産物として、尻の丸みが強調されるようになってきました。もっとも、外出時は普通の偽尻。矯正がきつくて、それを填めたまま普通に歩いたり走ったりすると怪我のリスクが出るからまずは室内で慣れてもらうってわけ。普通の偽尻だって内股への矯正機能はあるわけだし、今は夜だけでも十分ってわけ。

そんなミミ君に、偽股間をちゃんと夜もはめているのか尋ねたら、流石にそこまでする必要を感じてないので、外出の時だけにしているとか。
「いまさら恥ずかしいってこともないでしょうに」
と発破をかけると、口ごもりながらも
「男でなくなっていくような気がして」
と気の弱いことを言っています。そんなことでウジウジしてちゃ、この先潰されるよ。そのくらい演技練習と思ってわりきれなくっちゃ。それが出来るようなミミ君が好きなの、と言うと、ミミ君は「好き」という言葉に過剰反応したのか、真っ赤になって
「うん、がんばる」
とけなげなことを言って来る。ああ、可愛い。ミミ君はこれだから好き。恋愛っていう意味じゃなく、妹って意味だけどね。

こうして12月に入るや、ミミ君は夜を完全女装で過ごすようになったようです。小便も偽股間を填めたまま座って、ちゃんとトレペをつかって股間を拭うところまで。この偽股間は、前をクロッチ側からクルりと開けばあそこを取り出せるタイプだけど、アパートのトイレは座るのが推奨で、どうせ座って用を足すのなら、わざわざ前を開けるという面倒もしないという流れ。というか、それだから、「男でなくなっていくような気がして」ってなるのか。大丈夫だよ。ミミ君は男の「こ」です。ちゃんと男です。

ただ、学校で偽股間を使うのは抵抗があるらしい。ショーツと偽尻を使っているだけ。せっかく立って用を足せるタイプをタイプを渡しているのに勿体ないと思ったけど、ミミ君に言わせると、ゆるゆるのズボンであっても、股間が膨らんでいないことに気付かれそうだって。ていうか、クラスメートの女子が股間をちらちらと見るらしい。そりゃそうか。髪型、上半身体型とくれば、次は下半身だと思うよね。しかも、冬服で上半身が分からなくなった以上、下半身に目が行くのは当然で、その下半身は、偽尻でズボンが少し張るから、股間が目立つだろうし。っていうか、あたしも養成所に行く時にミミ君の下半身が女の子として不自然でないかズボンのころからチェックしていたし。とりあえずこれはマネージャー氏に相談ね。

ところで、中学生の目が普通に向かう上半身は? ふふふ、冬服になって、ミミ君は肋骨全体のコルセットを昼も着用するようになりました。そりゃ下のほうだけ「演技指導」と称して体型補正をしていれば、上半身は言わずもがな、新型偽尻を渡す際と、冬服更衣の際に軽く念を押したら、あっけなく学校でもコルセットをするようになりました。といっても、清掃当番の場所が汗をかかない週の、体育の無い日だけど。

ついでにスポブラもさせてます。こっちもコルセットをするようになったあとに
「ちゃんとブラジャーも着けている?」
と当たり前のような口調て聞いたら、まだだったので、ちゃんと学校でもつけるように念押ししました。スカート姿で訓練所に行く時、既にスポブラをしているのだから、ミミ君もブラジャーに日常的に慣れる必要は感じていたみたいで、直ぐに学校へもスポブラをするようになりました。

こうして迎えた新年。撮影にむけてミミ君の女装は、上半身のシルエット、下半身のシルット込みで、及第点です。100点満点の60点。80点とはあたしのようなシルエットね。例の女子中学番組の撮影に間に合ったという訳。撮影開始が11月末だったものの、年内は主人公格や同級生役だけが出る場面だけで、あたしたち3人組(ミミ君+チクり娘+あたし)のような下級生エキストラが出る場面は1月下旬以降だったから。ミミ君もほっとしているみたい。でも及第ギリギリの60点と告げられて「まだ努力が足りないの?」とちょとしょげていたけど。ふふふ、ミミ君は普通に女の子だよ。でも撮影レベルはもっと要求が高いってことを忘れているかな。だってミミ君に付けた60点とは「普通の女子中学1年生」と見なされるという程度だから。あ、65点取れてやっと普通の女子中学2年生ね。あたしはそこから15点も抜きん出ているわけ。


6. 男装は恥ずかしい、だって女の子を意識するから

新年になりました。

ミミ君の撮影デビューは下旬からだけど、養成所に2年近く行っているあたしは暇じゃない。昨年からどさ回りレベルながらも最後列の隅っこに時々出してもらっていた出世頭なのです。夏の事務所揃っての水着披露では、あたしもカメラから見て3列目ぐらいの位置に映って、それがなんと、ローカルテレビどころか、全国でもチラット出ていました。まあ、だれも気付かないだろうけど、それでも全国。そして、どさ回りでは、3列目ながらも中央の直ぐ隣にまで進出。歌だって、合唱オンリーから一歩進んで、1小節程度の多重唱のパートを一人で任されることもあるようになったし。

まだ事務所のWEBサイトにしか個人紹介は出ていないから(芸名しか無く個人情報は秘密)、同級生には見つかっていないけど、バレるのは時間の問題。特に年末年始の生中継(ローカルでしかも昼だけど)では見つかった可能性はある。というのも、風邪や年末年始の家族行事で参加できない娘の代わりに、始めて2列目に進出したから。ただでさえ、出世頭として同期の連中から陰口を貰っているけど、今後は、その手の嫉妬が増えそうで、その分、愚痴相手のミミ君はより重要になっている。もっとも1年前に一番嫉妬の激しかったチクり娘は「ミミ君の女装」という偉大な目的の元の同盟するようになったから、その意味では少し楽になったけどね。

生中継の翌日、ミミ君と一緒に初詣に行きました。ミミ君の家でお節料理を食べて(ちゃんと我が家の手作りの奴も持って行きましたよ)、それから着替えに付き合って、それで一緒にゴーって流れ。初詣って、人が多くて、他人と至近距離になるので、体型だけでなく、臭いなどからもバレる可能性があるんだよね。それを防ぐべく、初詣の前にミミ君のところに行って、厳格にチェックする。というのは口実で、本音は昨日までの生中継での疲れを癒すため。愚痴だけでなく、ミミ君の可愛さが段々上達する様子そのものも、最近は楽しみになっているし。ちなみにチクり娘も一緒。

まだ中学生で13歳(ミミ君が14歳になるのは3月)だから、振り袖では無いけれど、それでも目一杯おしゃれをするよね。そのつもりでいたけど、意外と早く終わっちゃった。年末から混雑=至近距離による「男バレの危険」を散々吹き込んだから、ミミ君も覚悟を決めて体型補正とかしてたし。というか、ミミ君のお母さんの話だと、年末年始、24時間偽股間すらずっとつける完全女装だったって。そのきっかけになったらしいのが、終業式の日に速攻で連れて行った美容院(1カ月前予約だよ)でやって貰った、パーマなんだな。ボブカットの軽いカール用だったけど、それでもパーマは始めてだったみたいで、
「いよいよ撮影か」
という覚悟度合いが一段とあがったのだと思う。

もっとも美容院に行くまで、ミミ君はボブを誤解していたみたいで、夏と同じように
「短く切りそろえるだけ」
と思っていたみたい。なので、自然な流れでパーマされてミミ君にはショックだったようです。でも、4ヶ月で5〜6センチ以上伸びて、夏の終わりに耳が半分隠れるぐらいだった髪が、耳を完全に覆って、カールを掛けて可愛いと思えるぐらいのボブが可能になったのだから、これを夏ぐらいの短さにするわけないじゃないの。ミミ君の落ち度だよ、これは。とはいえ、そんなこと言って拗ねられるのも難なので、当たり障りのない言葉で説得したけど。2週間もすればパーマが寝癖に負けて「男の子のボブカット」になるとか、冬休み2週間でボブカットに慣れることの大切さとか。止めに「男のボブカット」の例を検索で見せたら納得してくれた。

ちなみに夏の終わりの時は、だまし討ちみたいに女の子カットにしたし、長さもカールさせるには足りていなかったから、とてもパーマじゃなかったな。それでもミミ君にはショックだったから、あの時パーマまでに踏み込まなくて良かったと思っている。お陰で2学期は髪の毛を切らないでいてくれたもの。ミミ君は夏休み明けほどではなくても、耳が隠れるか隠れないかぐらいまでカットすることを予想していたみたいだけど、残念でした。

そんなこんなで、頑張ったのが報われて、初詣の時のミミ君は普通に可愛い女の子でした(中学1年生レベルだけど)。基本は白系のセーターと淡い赤系のスカート。人の多い所で他人と違う配色は目立ちすぎてミミ君への負担が多いだろうということで、あえて地味に普通の暖色系。そのかわり、セーターの下のブラウスとスカーフ、アンダーバストの位置につけたアクセサリーで、中学生の精一杯感を出しました。来年は外国人向けの簡易着物かな。髪がもっと伸びれば似合いそう。

靴はローファーとパンスト。ニーソックスでも良かったけど、いつまでも膝の継ぎ目を恐れていては先に進めないということで、パンストに挑戦させました。これなら万が一転んでもソックスがめくれても偽尻使用がバレない、って言ったら承諾してくれたなあ。いまさら承諾? 実はそうなんだよ。驚いたことに初使用だって。ローファーのほうは養成所で何度か訓練させたけどね。パンストが初めてってのは意外だったけど、考えてみればミミ君は女装時は中学「1」年生。高校になるまで履いたことのない人もいるらしいから、あり得ない話じゃない。

こうして、あたしは(おそらくチクり娘も)、ミミ君との初詣で、すっかり充電させてもらいました。時々、ほんとに同性じゃないかと錯覚するぐらいで、要するに素直な妹と一緒に行動した気分。


そういう充電気分を保ったまま、正月4日に養成所でマネージャー氏にミミ君の近況を秘密裏に報告しました。新学期を前に、ミミ君をどうするか考えないといけないから。とりあえず、全て順調ってのが現状認識かな。

今のミミ君は学校以外常時女装して、下着どころか体型補正までやっている。学校ですら上着を脱がない日の下着は女物。そんな子は、医学的にどうであろうと、世間的には性同一性障害と見なされるよね。ミミ君の母親だって、半分以上、そうではないかと思っているし、近所のオバちゃんたちは100%信じきっているだろうな。それは、あたしにとってもマネージャー氏にとっても嬉しいこと。というのも、普段着の女装は、あたしという友達に背中を押されたもので、マネージャー氏は一切関わっていないから。

つまりマネージャー氏はミミ君が性同一性障害だと信じていて、そういう子を女の子役として番組で使うことで、普通の女の子と同じ土俵で活躍するチャンスを与えた、という美談になるわけだ。あとからバレた場合すら「デビューでのプライバシーをよくぞ守った」と褒められるはず。こうして、マネージャー氏が気にしていた「押しつけ女装」という人権問題を気にしなくて良くなりました。あたしのほうも「彼女が女の子になりたいって知ってましたから、それを助けてました」と答えて辻褄をあわせれば、嫉妬まじりのボーイフレンド疑惑は吹っ飛ぶし。っていうかチクり娘もそれが分かっているからミミ君の女装に熱心なのよね。

とはいっても性同一性障害という噂が一人歩きしすぎて、女装の先に進まれると困る。あたしやチクり娘は「異性の友達=愚痴り相手」が欲しい。マネージャー氏だって、「男の娘」が欲しいのであって「元男性」ではないから。「男の娘」ブームの昨今、ニューハーフの需要は低いんだよ。

だからミミ君には、愚痴を聞いてもらう度に「ミミ君が男の子だからこそ言える」「ミミ君が男の子で良かった」「ミミ君が男の子だと誰も気付かないから助かる」と感謝を伝えているし、おそらくチクり娘も似たようなことを言っていると思う。それでいて、体格や仕草には普通の女の子以上の女らしさを求めて、股関節まで矯正させているのだから、我ながら身勝手とは思うけど、ミミ君だって、あたしと仲良くなれて、あたしに一番密着している男の子という立場を享受しているのだから、ウインウインの関係じゃないかしら。嫉妬の嵐に平然と立ち向かうには、そう思うくらい太い神経が必要なんだよね。本物の大天才なら違うかもしれないけど、あたしみたいに、普通よりちょっとだけ奇麗でちょっとだけ賢い「学校内限定アイドル」のレベルの人間がトップを目指すには、他人を利用するぐらいは普通に必要だと思う。この業界はやっぱり業が深い。

取りあえず、学校は今までどおりのような気がする。確かに髪型は、今のミミ君ほどに長くてかつ女の子っぽいボブはいない(体育祭での感想)けど、長髪の、耳が半分以上隠れるのもちらほらいた、服装に緩い私立の良さってだよねえ。しかも、ミミ君の場合は、本来なら短髪であるべき9月の頭にボーイッシュな女の子という感じの長さが黙認されてたから、その後、自然と伸びるままにしてもクラスメートは余り気にしないだろうし、そもそも2学期に「腫れ物を触る」形でスルーされた以上、それに慣れたクラスメートが、新たな波風を立てるとは思えない。まあ、体育の着替えの時にミミ君の下着に注目するかもしれないぐらいかな。

そこまでマネージャー氏と雑談していて思い出したけど、ミミ君は未だに学校へは偽股間も股関節矯正器も使わずに行っているんだった。クラスの女子が股間を見る視線が気になるとかで、体育のない日に偽尻を使っているだけだっけ。股関節矯正器の方は慣れてきて矯正内股で歩いたり走ったりするのを始める時期だろうし、その際に偽股間を使ったままの運動にも慣れさせるべきよね。その件についてマネージャー氏に何か進展があるのか再確認したら、
「そうだった、そうだった、お年玉プレゼントがあるんだった」
と言って、妙なものを取り出してくれました。何を隠そう、男装用に股間に偽の膨らみを作るキッド。それを見て赤面するあたしをよそに
「これで、男装させればよいね」
とのたまわる。女の子の下半身体型と股間を完全に押し込める訓練をしつつ、見た目はりっぱな男股間をカモフラージュするんだとのこと。これってあたしも使えるタイプ? って思ったのは内緒。

説明を聞いて納得したあたしは、それをミミ君のところに持って行く役目を仰せつかりました。っていうか、新学期前に「女装バレ対策」の復習のためにミミ君のところに行くことになっていたので、「演技のための新しい挑戦」としての男装用具を渡すには丁度良かったかな。ちなみに説得理由の追加としてマネージャー氏が「シャークスピア以来の伝統」ってのを教えてくれました。少年俳優に「男装するヒロイン役」をさせるというやつ。ベニスの裁判官とかね。

シャークスピアの話がミミ君の中二魂を刺激したのか、ミミ君はなんとか合意してくれました。というか、男装グッズなら問題ないだろうと思っていたら、とんでもない抵抗にあって、シャークスピアの話でやっと納得してくれたって次第。後日色々聞いて分かったんだけど、男装グッズを必要とするってのは「自分は男でない」と感じさせるらしい。

ともあれ、ミミ君は3日程自宅で練習したあと、体育の無い日は偽尻+偽股間+股関節矯正器という女装セットの上に偽男股間を装着して登校するようになったのです。パチパチパチ。偽尻も併用する(股関節矯正器の上に填めている)のは、股関節矯正器だけだとラインが不自然になりかねないというのが理由で、こっちは12月から近所に出かける時などで時々やってたみたい。ミミ君の家でも、そんな姿を見かけた頃があるし。お陰で、尻が以前より膨れている。うん、女の子のバストが日々に大きくなるのは当たり前だから、これで良いよね。

股間に偽膨らみを入れて「男」を強調するってことは、自然と学校でもトイレでアサガオを使うってことだけど、これは仕方ないか。でも、ミミ君が学校でも座って小用を足すようになるのは時間の問題かも。だって、ミミ君の学校では、トイレの一部(渡り廊下の各階にあるやつらしい)の洋式化工事を始めて、該当する男子トイレは同時に個室化してアサガオを無くらしいから。そのトイレは校舎の端の教室からだと、教室校舎の中央にあるトイレと同じ距離にあるから、来年ミミ君が気楽に行けるはず。というか、そういうクラス割りになるだろうってマネージャー氏が言っていた。名目はトイレの洋式化の試験だけど、これってきっとミミ君のためだよね? マネージャー氏、学校側に働きかけたでしょ? 性同一性障害を隠したがっている子の為とか、そういう子がテレビデビューしたら学校の宣伝になるとかなんとか言って、多目的トイレの増設でなく、男子が座って小用を足せる環境を作ったんだよね。ミミ君、外堀を埋められているよ。


そうこうするうちについに撮影の日がやってきました。撮影自体は土曜午後に1回分の収録を、翌日曜に2回分の収録をしたのだけど、あたし達下級生役のエキストラが出るのは、その中でも極一部で、下級生の活動に主人達3年生が指導する場面とか、脇役の部活の下級生役とか、下級生内部で起こった対立を、主人公達が解決する話とか。そもそも、勉強や部活の悩みを、趣味や家族の話、定番の恋愛といじめモノは一周目は3年生だけで済むので基本的にあたし達の出る幕はないし。

あたしたちが画面の一部に映るのは、どの回も5分程度で、特定の台詞は無く、ふつうの雑談だから、放映では雑音として処理される。なので、とりあえずは目立つこと避けて様子見。だって、この機会に売り込みたい下級生エキストラ連中が目をギラギラさせてたかから。そんなアピールなんか制作陣が全て無視するのは当然だし、それどころか目立ちすぎることをしないように、っていう注意があったぐらいで、ここで動いたらマイナスってのは、常識知ってれば分かるよね。突き抜けた人なら違うだろかも知れないけど、そんな人はこんなエキストラじゃなくても頭角を顕すだろうし。

そんな感じで、目立つことなく終わっちゃった。ミミ君は「他のエキストラ達やカメラマンにバレなかった」ってホッとしているけど、上を目指すあたしには物足りないのよね。次回に期待かな。3月の収録では台詞もあるから、そのとき頑張ってみよう。その結果ミミ君が目立ってしまったら? そんなことまで考えるほどにあたしは余裕があるわけじゃあないのよ。すべては成り行きで。あたしはあたしの為に目立つだけ。

撮影場所は、スポンサーとなった女学園の一角で、この時間に残っているのは運動部だけなので、かち合わないような誘導は簡単みたい。あたし達それぞれの学校の制服で現地集合だから、課外活動中の在校生には「高等部編入の為の学校訪問」ぐらいに思われているかも。もっとも、エキストラの大半は、各養成所から車でまとめて乗り付けているから、在校生には見られてすらいないだろうけど。あたしたちもそう。だって養成所からちょっと離れているんだもの。

撮影用のセーラー服はオーソドックスなタイプだから、自前のセーラー服を持っている人はなるべくそれを使うようにというお達しがあって、あたしもそれを使うことにしている。というか、このエキストラを決める際に、自分の使っている制服がセーラー服の子を優先しているみたいで、それであたしが真っ先にエキストラに選ばれたってな流れなのよね。それでも半分ぐらいは貸し出しってのが、さすが養成所に行くような子は私立中学が多いというか。養成所って月謝が結構高いから、金持ちで中学から私学に行かすようなエリート志向の極めて高い親がバックについてるのよね。

ミミ君はあたしの後輩というか、妹分というか、そういう感じに養成所で思われているから、ミミ君が「セーラー服」枠に入るのは自然な流れで、そうなると、今日は家を出るときからセーラー服を来て養成所に向かわなきゃボロが出る。もちろんセーラー服に慣れてもらうために、12月から毎週一回、養成所のない日に一緒に外出をしてたけから、今日は大丈夫なはず。そりゃ12月こそはちょっと不慣れな感じもあったけど、今じゃ普通に着こなして、初々しい中学1年生って感じだし。この分じゃ4月になっても新入生で通るんじゃないかなあ。

セーラー服はあたしが一回り大きなサイズに替えた機会に、中学入学の時に使ってた奴をミミ君にあげたってわけ。まさに「お下がり」ね。あたしが買い替えるのは入学時からの予定。だって、あたしに運があってメディアへの露出が増えるなら、それは中3時点だろうと思っていて、その時点でちょっとお古になったセーラー服ってわけにはいかないから。だから中1のときに使ってたのはまさに中1サイズ。それを余裕で着れるミミ君って、本当に肋骨が細くて薄くて腕も短いのよね。やっぱり女装がお似合いよ。

ともあれ、今日の撮影で普通に自然に中1女子だったミミ君はスカート卒業だね。っていうか、そろそろパンツ系とかいろいろなボトムズのミミ君が見たいな。スカートばかり履いていると、女の子ですらパンツ系の腰ー尻ー太腿ラインの露出が気恥ずかしくなったりすることもあるし、パンツ系ばかり履いていると、これまた女の子ですらスカートの捲れそうな感じや階段で下着を見られるリスクから恥ずかしくなったりするしで、ましてや女装のミミ君ならもっと恥ずかしく感じると思う。そして、そんな時にミミ君が見せる恥じらいの様子が可愛らしくて清涼剤になるのよね。元々は愚痴の相手だけで満足してたけど、可愛らしいミミ君を見慣れると、もうちょっと欲が出るんだなあ。お陰でいつもリラックスできるあたしは同期の出世頭を続けている。逆に、あたしが有望だからこそ、マネージャー氏もあたしに有益なミミ君の存在をフォローしているし。まさに正のスパイラルね。

そんな訳で
「ミーちゃん、最近はいつもスカートよね。たまにはパンツ系も履いてみたら?」
と、しれっとスカート合格を出してあげました。ミミ君はぽかんとした表情で
「え、パンツ系を履いても良かったの?」
と聞き返してくる。うん、そうよね、あたしの言い方だと、ミミ君が好き好んでスカートを履いているように聞こえるし。
「少し前に言ったと思うけど、もしかして聞いていなかった」
と更にシラを切って、ハイ、この話は終わり。

ちなみに、ミミ君はその後も10日程、外出はスカートでした。養成所への行きがけに追求すると
「学校で男装用具を使うようになったからか、ズボンだと皆の視線が股間や尻に向かうのを感じるの。その視線が恥ずかしいというか怖くなってなってきて。おかしいのかな、こんなの」
はは、ミミ君、その方面の恥ずかしさを取得したのか。恥じらいレベル3ってとこかな。それ、とってもわかる
「女の子はいつもそんな視線に晒されているから、ミミ君だけじゃないよ。それってバレてないってことだから。魅力的だから視線があつまるのだもの」
よし、今度は尻・股間のラインがぴっちりする系統のジーンズとかレギンスとか履かせようっと。それに慣れてもらったあとに、今度は尻と腰のくびれを強調するスカートを履いてもらおうっと。その度に恥ずかしがってくれるよね。


(続く)

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