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(無題)

by 青くない人

「君、アイドルなんだって?」
「あれは弾みで出たセリフで…『俺がガンダムだ』のパロみたいなもので。騒いじゃったけど、あの店で8○6プロのアイドルのカード買いました」

 B氏の伝でA氏と会うことになった男はA氏が妥協して異例のバーやラウンジ以外の店として指定した純喫茶にいた。

「なら、ニュータイプかね」
「ただのア○マスオタです。ついでにニコ厨もやっとります」

 A氏もオタクのB氏と交流がある時点である程度の知識はあるようで、テーブルの向かいの席に座る男ともある程度会話が噛みあっていた。それでも、彼にとってA氏はB氏程親しげなキャラでなく、顔立ちや服装からしてむしろ秩序や管理側に属する保守的な層の人間に見えた。A氏が恵まれた外見や能力を有していながら望む相手との結婚が叶わないことに端を発する波乱の人生を知る者は少ない。

「動画サイトというのは面白いね。趣味嗜好の多様化によって、私達のような者を取り巻く情勢も大きく変わった。つまり、これまで反目していた女性側からの一定の支持を得るに至ってる…」
「その話長いですか?」
「まあ、これを見てくれたまえ。中古フィギュアとは比にならないんじゃないか?」

 若き日は硬派で馴らして義理や友情故にディープな世界を目にすることとなったA氏もゆとり世代の彼には同じ男としてため息が出そうになるが、稚児や衆道に起源を発する文化を絶やさないためにも叱りたい気持ちを押し殺して画像を表示したスマホをテーブルの上に置く。

「マジ、ぐうかわっす」
「どういう意味かね?」
「ぐうの音も出ないほど可愛いって事です」
「つまり、一度会ってみたいと?」

 完成度の高い女装アイドルのコスプレの画像を見ると、彼は色めき立った。目の超えた男にも、メイクのスキルだけが高い女性よりもピュアで全年齢のゲームキャラよりも悩ましく見える。

「ええ、まあ…でも夢が壊れないか怖いって思いもないようなあるような…」
「意外とシャイだね、私が紹介できるのは生物学上の男だが、それでもいいかね?」
「こんなにかわいい涼ちんが女の子のはずがない!萌え要素に戸籍など何の意味が?」

 彼はオタクでも二次元派なので、三次元やリアルにはある程度抵抗があって不安感を露にするが、秋○涼と同じく画像のレイヤーが男と知ると、女性が似せてるわけでなく原作基準なのであまりのレアケースに感動する。

「チャンスは一度きりだよ、男は度胸。何でも試してみるもんさ」
「でも、なんか一線を越えるには抵抗があるっていうか…」
「だらしねぇな、歪みねぇ思いはないのか?嫌なら仕方ないね」
「妖精哲学の三信…さすが、兄貴。やるよ、俺」

 A氏は彼がノンケだと知っていたので、なんとか同志にしようと、パンツレスリングで名を上げたかつて米国で活躍して来日も果たした屈強な元ポルノ男優のセリフの空耳から生まれた言葉で畳み掛ける。

「なら、話が早い。実はもう店の外にいるんだよ。後は…」
「ヒャッハー!男の娘だー!」
「カフェインが濃すぎたか?」

 男は堰を切ったように美少年と対面を果たそうと勢い良く店を飛び出す。フィギュアは新品であろうと話しかけても答えないが、例えナルシストや自信家であろうと語り合えると信じて逸る気持ちを抑えきれない現れだった。

「あの、Aさんが言ってた方で…」
「ほう、なんといういい面構えだ。ティンときた!」

 彼はすぐにゲームで見た女装アイドルと同じ髪型と服装の美少年を発見すると、立ち止まってガン見する。

「ぼ、私…なりきれてますか?」
「身長と体重は?」
「162センチで54キロです」

 不安そうな美少年に対し、男は突然秋○涼に纏わる質問を浴びせるが、なりきれる位なのでキャラデータは完全に頭のなかに入っていた。

「髪は」
「…地毛です」
「GJ!」
「ありがとうございます!」

 彼は髪が確かにウィッグのように取ってつけた感がまるでない事にサムズアップで称賛の気持ちを示す。キャラに惚れ込んでるからこそ変身願望にも妥協がないからで、美少年にとっては祝福にも等しい行為だった。

「でも、どうして君はリアル涼ちんに?」
「変わりたかったんです。女顔のヘタレから、一部からでもいいから人気のあるキャラに」
「いやいや、涼ちんは8○6プロではセンターといってもいい。俺だって…ネットでは堂々とファンと告白してないし、密かにアンビバレンツな思いを抱いている奴はかなりいるぞ」

 歩きながら尋ねてくる男に対し、美少年は自分のコンプレックスと秋○涼がオーバーラップしたのがきっかけで女装コスプレしたのが最初だと思い出す。
 自分がガチホモでないからこそ、ノンケから少し背伸びして冒険しようという同性の手助けがしたいとA氏の誘いに乗ったのが本音だった。秋○涼と同じで温和で物腰穏やかな彼はオタクも女装趣味も完全には社会から理解を得れてない現状が少しでも変わればと願っている一人である。

「だが、それがいい」
「いいんですか?」

 イベント会場では人を立ち止まらせる自信はあったが、女も男もあくまで興味本位で撮影していくだけなので、漢とも称される劇画やパチンコでお馴染みの天下御免の傾奇者のセリフは美少年の心を打った。
 
「夢 人は誰でも 夢に恋焦がれている (中略 この世の中で夢以上に確かな物を 人は持っているのだろうか?」
「じゃあ、デートしてくれる?」
「まずは、プリクラだな」

 彼は三十路になっても口説いたり誘うのに慣れてない男で、大剣を振るう逞しい剣士が活躍するアニメの冒頭のナレーションを引用して美少年に期待していることを匂わせると、不器用さを見かねた女装美少年は少女のように誘い、それを耳にした男は繁華街の中でプリクラハウスを見つけると二人で入る。

「思えば一度きりのリア充の頃でも…ここまでイージーモードは」
「この角度どうです?この膨らみはなかなか出せないんです」

 美少年は秋○涼が男でもゲームだとシルエットでは胸があるように見えるのでパッドを入れたブラをしており、腰を捻って彼に女性らしいラインを誇示する。

「そう言われても、触ってみないことには…」
「いいですよ、ぴたっとくっついてるんで…自然な」

 A氏から彼がノンケと聞いていたので、シリコン製で吸い付くようにフィットしたパッドのリアルな感触に驚くに違いないと女装子はほくそ笑む。

「なら、遠慮なく」
「ぎゃおおおん!」
「すまん、DSでやってたときのクセで、つい…」
「どんな遊び方ですか!せめてΠタッチでしょ!」

 彼は秋○涼の3サイズを知っているから貧乳には興味なく、むしろゲームでタッチしてみたかった股間に手を伸ばす。すると、美少年は秋○涼と同じ悲鳴をあげて飛び退く。

「ぎゃおおおん!いただきました」
「僕、私を試したの?」

 男は仮にふんわりショートボブの髪に触れてもここまでのリアクションはなかったので、素直に楽しめたという素振りを見せる。彼が性的な知識が豊富でも、特に中性的な美少年を迫害する狭量で粗暴な男たちと違って差別意識や悪意はなく、純粋にユーモアと好奇心からだった。

「次はカラオケに行こう、アイドルになりきるなら、歌唱力も問われるもんだ」
「いいですよ」

 悪ふざけで結局撮影はできなくても、美少年がどこまで秋○涼を演じれるかに興味があった。

「結構練習したんです」
「持ち歌、完璧だな。振りも」

 美少年は直訳すると輝いている世界という曲を秋○涼の振付と目を閉じたり開けるタイミングまで合わせ、お尻を振るシーンでは女装アイドルどころか目の前にいるのが同性なのか一瞬疑わしく思えた。とりあえずバーストアピールだけ合わせておこうなどというレベルではないので、彼は初めてカラオケボックスで手元にサイリウムがないことを悔やんだ。

「声もちゃんと、女の子っぽかったかな」
「そういや、喉仏も全然出てないな。やはり、涼ちんは涼ちんという生き物に違いない!可愛いは正義」

 男は声は作れても、目の前の女装子がスラリとした手足で曲線や円という女性的な動きを異性とは骨格から違うのに、微塵も無骨さを出さずフェミニンさをものに出来てることに才能と努力の賜物だと確信する。

「もう一曲いい?」
「キラメキラリ?」
「聞いてのお楽しみ」

 もし女装美人がステージに立てば地下アイドルに負けないレベルではと感じるが、本人は歌うこととアイドルという偶像を演じる自分に酔わせることを楽しむ。

「おおっ、さっきの曲の最後の投げキッスといい、今のPさんLOVEって歌詞は…私は心を奪われた!この気持ちまさしく愛だ!!」
「分かってくれました?りゅんりゅん♪」
「ついに涼ちんが覚醒された!まさに好機」

 彼が感動し、美人女装者に完全に魅了されたと語ると、当の女装子も少女になった気分で男に寄り掛かる。

「だったら、どうするの?」
「ホテル、行かないか?」

 興奮する男は美少年の肩を抱いて決意した。アキバ系としてギャルゲーを幾つもこなして二次元の美少女の機嫌を取ったり振り向かせることには長けていたが、リアルで肉体関係にまで持ち込むことはさほど慣れていない。

「本当に連れてきてくれたんですね。けっこう高そうだし」
「今日の私は阿修羅すら凌駕する存在だ!」
「思うんです、野望を実行できるものが唯一ヒロインになれる!!」
「なら、まずキスだ」
「いいわよ」

 どうせしゃべるだけで終わりと当初は思っていた男は、ラブホテルに入ってからも自らを奮い立たせようとすると、美少年もテンションを上げて応じる。肩を出してミントグリーンのワンピースを着ていても同性なので、女装子は熱い気持ちが理解できた。

「デートの最後はラブホが理想的なんだけど、俺さ…こういうレアな経験なくて」
「お兄さん、何も心配いらないですよ。それに、気持ちよくなりたいんでしょ?」
「あ、ああ」

 キスした直後に同性なのを差し引いても歳の差に開きがあると改めて気づくと、彼はベッドに座り込んだまま動けないでいたが、美少年は彼の不安や葛藤を察して彼のベルトを外してファスナーを下ろす。

「じゃあ、任せて。女の子より感じるツボ心得てるし」
「おおっ…涼ちんが俺の…ちんを…」

 美少年はいつの間にか彼のズボンを脱がしてシャワーを浴びて我に返る可能性を排除するのと心のなかにわずかに残る抵抗感を取り去るために彼のモノをウェットティッシュでよく拭いてから触ると、静かにそれを口に含む。

「お兄さん、しっかり反応してるじゃない」
「そりゃ、涼ちんが…うまいからさ」

 女にできて自分にできないはずはないという自負心があって女装子は頑固さと芯の強さを反映させたフェラチオで、彼を勃起させると満足気に語りかける。

「んっ…感動の涙っていうか、もうガマン汁が…えっち」
「面目ない」

 素直に褒めてくれる彼がいとおしくなった美少年は更に口腔愛撫を続けたが、それだけで終わらせるともし彼が淡白だと困るので中断する。

「私ね、あんまりおっきいとアゴが疲れちゃう。そろそろ、本番する?」
「えーと、つまり…涼ちんのケツマンコに?」

 美少年は立ち上がるとヒップを付き出してショーツを脱ぐ。男は美少年が下着まで女物でも驚かない自信があったが、なにげに縞パンでちゃんとイメージカラーのノイエグリーンだったところに見せることも意識していたと感じて改めて脱いでくれることに期待を隠し切れない。

「お兄さん、案外マニアック。専門用語知ってるし」
「伊達に年は食ってないさ。それより…」

 同性での行為についてまるで知らないわけでないと少し安心して顔を近づけて笑う女装子に対し、勇気の無さが経験のなさに繋がってるだけと男は自嘲する。

「んっ…」
「?」
「…ふぅ」
「いっ!」
「ずっとコレ…入れてたから。アナルストッパーっていうの。歩き方も女の子らしかったでしょ?」
「そこまで覚悟を見せてくれたんだから、やらない訳にはいかない」

 女装子が腹に力を入れて引っ張りだした物体はネットで画像だけは見かけたアブノーマルな臭いのする淫具で、硬さや重さが見た目ほどでないにしても、まず自分で入れようとは思わないサイズなを見て視線を落として自らの分身と見比べると挿入が可能だと分かる。

「だったらゴムつけて。それからローション塗って」
「り、涼ちん…」

 彼は女装子がベッドの上に乗って四つん這いになって挿入待ちしてるのも、正常位だと性器がズバリ見えるからそうしないのだという優しさが伝わってきたので、風俗だと女性に付けさせていたスキンも自分で装着してそれに小瓶から垂らしたローションを満遍なく塗った。

「…来て」
「すごい、入ってく…」
「お兄さん」

 女装子は誘う言葉とともに息を吐いて受け入れやすくすると、男はアナルに侵入させていく。

「涼ちん、俺のでりゅんりゅんする?」
「お願い、もっと奥まで…いっぱい動いてぇ」

 彼は野暮だと知りながら未知の行為に対し、快感と苦痛のどちらを齎しているのか気になって仕方なかった。

「はぁ、はぁ…涼ちん、こう?」
「お兄さん!いいっ!そこっ…もっと」

 女の膣には襞が少なかったり締め付けが弱いとされる粗器もあるそうだが、少なくとも男に取って美しき女装者の穴は機敏な反応と畝りでおのずと腰の動きを盛んにさせる。

「涼ちん…こんなに締まるなんて…俺、もう…」
「来てぇ、お兄さん!一緒に…ああん!」

 男が翻弄されているように、女装子も抽送と圧迫が前立腺に確実に伝わってきて、互いに我慢が持たないことを隠し切れない。

「うっ!」
「あーん!いくぅ…」

 深くて一際重い突きと同時に男が果てると、女装美人も嬌声を伴ってアクメに達する。

「はぁ、ぁ…涼ちんもイッたって事は、どぴゅって飛んだの?」
「ぼ、私の場合は…どろって感じ。穴でイク時は同時には出ないの」
「男の娘の…謎だな」

 排泄器官と生殖器で繋がったまま、想像や憶測を伴う他愛もない会話を二人は交わした。

「お兄さん」
「悪い、いつまでもくっついたままだと熱いし、穴も開きっぱなしになっちゃうか」

 二人はろくに上半身は脱がずに行為に及んだものの、男はようやく美少年の肩の骨が肉越しにややごつっとしているのを感じ、車の追突の俗称でもある行為が終息に向かう事に同意する。

「先に、出てくれます?」
「ああ、武士の情けだ」

 年や姿が違えども共に男なので、賢者タイムになるとトーンダウンして変に冷静なる。男は成りきっていても完璧ではないと察して料金をおいてホテルを後にした。

「お兄さん、まだいたんですか?」
「涼ちん、男の子モードじゃん」

 男は明るいうちから酒は飲めないと思い、自販機で缶コーヒーを買ってその場で飲んでいた。すると、出会った時とは打って変わって眼鏡で顔の印象まで変わって地味な服装の中性的な少年が都会の風景に埋没してるようで、男女兼用に見えるバッグだけが痕跡を留めていた。

「家に戻る時は、こっちのコスプレのほうが都合がいいんです。女顔のヘタレだし」
「涼ちんなら、女子にもモテるさ」
「肩組んでこないんですね。Aさんが言った通り、固定観念にとらわれない多様性を備えた大人の男だなって」
「割り切った関係と言ってくれ。俺なんか完全におっさんだぞ」

 性交渉を持っても、容姿が変われば男も趣味以外で社会的な接点はないので相応の距離感で応じる。男が少年の姿だと欲情できないように、少年も女装してないと同性を受け入れて快感を得ようとは思えなかった。

「変態紳士でしょ?」
「りっちゃん?!」
「そういうコスプレよ。会場でも血のつながりがあるのかって聞かれるけど、元漫研の先輩なだけ」

 ゲームでは秋○涼の従姉という設定の秋○律子そっくりの眼鏡とエビフライとも形容される三つ編みの若い女性が現れると、男は信じられないといった顔で固まる。

「でも、コンビニで働いてるんだよね」
「偶然よ、しかもロー○ンじゃないし」

 秋○律子のコスプレをしてる彼女は美少年をコスプレの名を借りた女装に手を染めさせた一人で、秋○律子と同じく利発で物怖じしない質で美少年から頼りにされていた。

「まさか、りっちゃんまで俺とチョメチョメ…」
「違うわよ!Aさんにはサークルを支援してもらってるけど、あんたが紳士って保証はないから…秘密裏に監視してたの」

 男には彼女も嬉しいオプションではと都合よく考えていたが、メガネ女の思惑は別のところにあり、単なる中性的な少年から可愛い女装者にまで手塩にかけて育てた彼を傷物にされないか警戒していた。明確な恋愛関係とは呼べなくても童貞も処女も奪ったので執着も強かった。

「まさか、盗撮?」
「涼が心配なだけよ、覗き趣味なんてないわ」

 ストーカーどころか長期に渡る恋人関係を構築したことのない彼には、彼女の危惧は理解できなかった。彼女は腐女子などと違って男同士に過度な幻想は抱いておらず、即物的になりやすくて強引な手法に走りかねない危うさも考慮に入れていた。何より、寛容であっても負の側面から目を背けれる程理想論者でもない。

「例えばの話だけど、これくらい出すっていったら眼鏡アイドルと女装アイドルと3Pできる?」
「悪いけど、紳士協定に反するわ。それに、涼に入れられるのはあたしだけよ」

 ア○マスでは仲のいいアイドル同士の関係を楽しむファンが多数いるので、いとこ同士の二人を侍らせれれば男冥利に尽きると、指で金額を提示するも彼女は相手にしなかった。

「なら、涼ちんだけでいいや。君はそんなに成りきれてない。少なくとも、若○神の足元にも及ばない」
「またAさんに頼めば?別の子も紹介してくれるんじゃない?それより…」

 金では体を売る気はない彼女もオタクの経済力を理解してるので、自ら別の提案をする。

「何?」
「感謝してるんなら、あたしたちが描いた薄い本買って」
「分かったよ」

 二人が描いてる同人誌ならさぞかし倒錯的で実用性に富んだものだろうと胸を躍らせつつ、彼女からもらった淡い緑に四葉のクローバーが書かれた名刺を握りしめて見送った。

            (おわり)

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