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今様のサンタ

by 夢喰

「あたしがなんでこんな事をしなくっちゃならないのさ」
宝船の中で弁天様は舌打ちした。その横で荷物持ちの恵比須様が
「じゃあ、布袋の野郎が全部やって良いっていうのかい?」
と恵比須顔で弁天に尋ねている。
「このへらず口め、聞いただけで胸くそ悪くなるじゃねえか」
そんな事をされたら宝船の仲間全員が変態と思われかねない。いかに贈り物といえども、誤解を生む行為に弁天様は耐えられない。
 昔はこんな心配はなかった。新年の贈り物を買いそろえるのに、男の入れない場所などなかったからだ。襦袢にしても化粧道具にしても男から女への贈り物として、男が買うのが当たり前に近かった。だが今は違う。女しか入れない場所、とくにメタボ親父の絶対に入れない場所と云うのが存在するのだ。
 もっとも、恵比須様はそんな世評なぞどこ吹く風で
「別にええじゃねえか、俺達が笑いものになれは世の中は明るくなるんだから」
と能天気な事を言っている。笑いと変態とは恵比須様の頭では等号で結ばれているようだ。
「あたいはあんたとは違うんだ!」
弁天様の美しい顔がゆがみ、恵比須顔に掌の跡が残った。

 その昔、人々が貧しかったころ、人々のもっともささやかな願いを新年にかなえてきたのが布袋様だ。だからこそ、布袋様は贈り物の詰まった大きな袋を抱えている。大人がやや豊かになり、それに伴って猜疑心が増えてきたあとも、純粋に贈り物を願う子供達の為に、サンタというISO19450815規格の名前で、布袋様は贈り物を続けた。
 贈り物には条件がある。それは当人が買いたくても買えないものという事だ。子供にとってのそれは、1950年代は勉強道具であり、1960年代は人形や車のリアルなレプリカであり、その後も、漫画、自転車、ゲーム等、親にも買って貰えず自分でも買えない『欲しいもの』を、子供の2割以上が持っていた。
 だが、バブルと共に、子供が望んで手に入らない物はなくなった。お年玉が高額になっただけでなく、パソコンだって、電話だって「勉強のため」「安全のため」という理由で子供の懐を痛める事がなくなったのだ。大人たちは省エネを連呼するその横で、子供にだけは資源浪費の買い物を厭わない。かくて、金で買える物で、子供が持てない物はなくなった。それは即ち布袋やサンタの役目が終わる事を意味していた。


「キュロットなんかで満足するなんてウブだねえ」
贈り先のリストを見ながら、買い物をしていた先ほどと違って、弁天が思わず顔をほころばせる。他の6人もリストに従って、買った物を事務的な手つきで仕分けしている。年齢上限は14歳。下限はゼロだが、8歳以下はほとんどいない。

 捨てる神あれば救う神あり。この場合、もちろんお客様が神様である。
 どんなに豊かになっても、否、豊かだからこそ買えない物が新たに生まれて来る。そう、それはタブー(聖域)の品物だ。男の子にとって、それは女の子の服。もちろん、6?7歳まではあまりタブーとは言い難いが、小学校も3年生ぐらいになると、学芸会ぐらいを除いては、女装は出来ない。というのも、男としての自我が目覚めるからだ。だからこそ、この年齢あたりから男女別々に行動し始めるようになる。
 それまで簡単に届く位置にいた「女の子」が遠ざかり、男は女を求め始める。もちろん、10歳前後の男の子の半数以上は女の子なんかに未練を持たず、目下の遊びに専念するだろう。でも、いつか気がつくのだ、女の子が手に届かなくなった事に。女の子のほうは男の子よりも先に大人ぶってくるので、あまり男に未練はない。
 女の子を求め、ある男の子はスカートめくりなどエロ路線に走り、ある男の子は対極の男らしさに走るが、男の子の中には、女の子という存在を体験してみたくなる者も出て来る。それは性同一性障害とは違う。もちろん、好奇心がエスカレートするあまり、当人が勝手に性同一性障害と誤解して悲劇を生むケースもあるが、そんな所までは布袋は面倒をみない。性同一性障害であろうがなかろうが、女の子の恰好をしたいと思っている男の子に、女の子の服や化粧道具を自然な形・・・親に黙認される形で贈るのが仕事だ。だから、リストには、口紅、化粧品、スカート、ワンピース、キャミソール、ショーツ、ブラジャー、水着、セーラー服などがある。

 仕分けを終えた6人は、いよいよ宛名書きにかかった。
「これが大変なんだよねえ」
誰宛であるかをきちんと書かないと喧嘩の元になる。でも、もっと難しいのは筆跡だ。テロや悪戯と間違えられないようにするには、送り主が分かるような筆跡でないといけないからだ。


或る小学3年生の体験から

 今日はクリスマス。サンタなんか信じちゃいないけど、いたら素晴らしいなって思う。だって今年は人に云えない望みが出来たから。それは好きなあの子のそばにいること。
 でも、男の子と女の子と別々に遊ぶようになって、あの子は
「あんた男の子でしょ、あっち行きなさい」
って。何度もアタックしたけど、いつも男女の違いの一点張り。スカートでも履いたら一緒に遊んでくれるのかなあ。サンタさん、もしもいたらどうにかして。
 そんな思いで迎えたクリスマスだけど、やっぱり何も起こらない。期待していなくてもやっぱりがっくりしてしまう。まあ、折角早起きしたのだから、新聞ぐらい取ってきてあげよう、と気を取り直して玄関の新聞受けを見ると、新聞の他に小さな小包が入っていた。宛先はお母さんだ。それだけなら驚かないが、差出人が「サンタ」と書いてある。
 お母さんが起きて来るなり
「お母さん、サンタから小包が届いているよ」
と話をした。お母さん
「こんな時刻に? あれ、スタンプもないわ、誰かが直接持ってきたのね」
と言いつつ小包を眺めていたが、やがてにっこりして
「あ、これ、きっとサンタさんね、お父さんにも見せなくっちゃ」
と言って、小包をテーブルの上に置いて朝食の準備を始めた。
 なかなか空けてくれないのはもどかしい。サンタのプレゼントなんだよ、どうして直ぐに開けないの? どうして直ぐにお父さんを起こさないの? 痺れをきらせた僕が
「僕、お父さんを起こして来る」
と言って寝室に向かおうとすると、あ母さんは
「お父さん、昨晩遅かったから、もう少し寝かせてあげなさい」
と止められてしまった。一体、どうしたんだよ。

 こんな日に限ってお父さんは目覚めるのが遅い。普通の日曜だってもっと早く起きるじゃないの、と思ったけど、でも、とにかくお父さんが起きてきた。サンタの小包の話をすると、
「お母さんにサンタからの贈り物だって? おまえ宛ての間違いじゃないのか」
と言って来たが、小包を見るなり
「お、サンタにしてはちょっと字が汚いかな。でも、立派なサンタって事はよーくわかる」
と僕に笑いかけてきた。確かに字が奇麗とは云えないけど、他の郵便だって似たようなものじゃないの? お父さんの言っている意味が分からない。
「じゃあ、あけますよ」
とお母さんが注意を引いて、包みを丁寧に空けていった。すると、その中から、白い布っぽい包みが出てきた。よくよく見ると、高校のお姉さん達がつけているルーズソックスで、その靴下の中に何かが包まれているみたいだ。お母さんは靴下を裏返すなり
「あ、ここに何か書いている」
と言って僕の方に笑いかけてきた。よく見ると、靴下の入口がテープで止めてあって、そこにメモが貼付けてあり、
「**君へ」
と書いてあった。わーい、なんとこれは僕へのプレゼントだったんだ!
 その時、僕はその筆跡が僕の筆跡にそっくりな事に全く気がつかなかった。

 開けてみると、中には半ズボンらしきものが入っていた。なんだ、服か、とがっかりしたて
「なあんだ、服か」
と言ってしまったけど、それを言い終えた直後にびっくりした。だって、広げてみると、確かにズボンではあるけど、裾が少し開いていたから。キュロットスカートだと思った瞬間に、まるで内心を透かされている気分がして、恥ずかしさのあまり机に放り出した。そんな僕の気持なんか構わず、お母さんは
「へえ、**はそんなズボンが欲しかったの?」
と言ってきた。
 後から考えると、キュロットスカートと云わずにズボンと言ってくれる所が、僕の戸惑いを配慮してくれていたんだろうけど、焦っている僕にそんな事は分からない。顔がほてって来るのを感じながら、
「きっとサンタさんが間違えたんだ」
と小声で言うのがやっとだった。もちろん、サンタさんが正しい贈り物をしてくれた。でも、こんな状況でそれを肯定なんか出来ないじゃないの。
 一呼吸ついて、両親がどう思っているのか気になった。恐る恐る顔を上に向けると、お父さんは口をヘの字にしているし、お母さんもちょっと言いよどんでいる。やがてお母さんが
「サンタさんが間違えたかどうかは後で考える事にして、今夜は何を食べたい?」
と話を代えて、その場はそのままになった。服は机に上に置いたままだったけど、僕は恥ずかしくて正視出来ないので、そのまま外に遊びに行った。せっかくの日曜なんだ。

 遊びに出て頭を冷やすと、サンタの贈り物なんて有り得ない事に気がついた。贈りものを貰ったときはサンタの振りをした何処かの物好きの仕業だと思っていたけど、それは僕にとってはサンタとなんら代わりないから、サンタサンタと思っていたのだ。しかも、贈り物がまさしく本物のサンタでないと出来ないような、僕の内心を見透かした内容だったから、ついつい本物のサンタの贈り物のように考えてしまった。でも、そうじゃなくで、誰か普通に人間だ。
 そう思うと、またも僕は恥ずかしさに血が上った。だって、この世にいる誰か、恐らくは友達が僕の内心を見透かしてあんな贈り物をしてきた事になるからだ。でも、誰が?
 ん? もしかしてあの子? 僕を何度の拒絶している女の子なら? あり得る! ということは、僕がキュロットを履いて女の恰好をすれは一緒に遊んでくれるのかも!!

 夜になってお母さんが例の服を持って僕の部屋に来た。
「サンタさんの贈り物は大切にしなくっちゃ」
とお母さんは言ってくる。履いてみたい気分が多少ある僕は何も言えないままだ。
「それとも誰かのいたずら?」
いたずらって可能性は考えていなかったなあ。でも、違うような気がするし、違うと信じたい。お母さんも悪戯とは考えていないみいたいで、すぐに
「いいのよ、恥ずかしがらないでも。お父さんとも話したから」
とフォローしてくれた。
 僕はお母さんの顔をちらりとみて、服に目をやった。このチャンスを逃せばスカートは履くチャンスは永遠に失われてしまう。それは、あの子と遊ぶチャンスを失ってしまう事と同じだ。決心のついた僕は、そっと手を出した。
 手に取って、例のキュロットをつくづくと眺める。きちんと眺めるのは初めてだ。あんまり女の子っぽいデザインじゃないし、ちゃんとズボンだ。でもキュロットと分かる。太腿にピッチリしていない分、履き心地はそさそうだ。
「夏は楽そうだね」
とだけ僕がいうと、お母さんは
「ああ、それで欲しかったのね」
といかにも嬉しそうな声で返してきた。え? 欲しかった? お母さんも知っていたの? なんだあ・・・そう気を落とした時
「せっかくだから、今、履いてみたら」
と追い打ちをかけてきた。なんでもクリスマスのプレゼントは貰った時に取りあえず着てみるのが礼儀だそうだ。
 礼儀=義務と云われて、安心した。だって、僕は好きでスカートを着た訳でなく、義務でスカートを着たという言い訳が出来るからだ。もっとも、それでも今のズボンを脱いで、キュロットを履くまでには3分以上の時間を要した。だってやっぱり恥ずかしいのだもの。でも、履いたあとは何だかすっきりして、嬉しくなった。なんといっても親公認だし。

 その後は何だかお母さんの買って来る服が少し変わった気がする。始めはとっても恥ずかしかったけど、でもちょっぴりだけ嬉しい。


或る小学4年生の体験から

 子供の事から喧嘩が嫌いで運動神経が鈍くて泣き虫で、だからこそ、女の子みたいといわれるのが嫌で、出来るだけ薄汚い恰好で、お母さんが買って来る奇麗な服も男女兼用っぽいものなら拒絶して、男の子をアピールしていたんだ。だから、去年まで自分とは正反対の世界だと思って全然考えた事が無かったのに、1年前にふと思っちゃったんだ。
『女の子ってのどんな感じなんだろう?』
それからというもの、この疑問が段々大きくなって、
『スカートってどんな感じなんだろう』
『髪を伸ばすとどんな感じなんだろう』
『おちんちんがないってどんな感じなんだろう』
『すべすべの下着ってどんな感じだろう』
おしっこだけは、アパートのトイレという事もあって、座ってするように躾けられていたので、あんまりなんとも思わなかったけど、それでも
『女子トイレでおしっこをするのってどんな感じだろう』
っていう好奇心が募ってきたんだ。もっとも、最後のは痴漢行為とかいう犯罪だったような気がするので、喧嘩すら出来ないような僕には絶対に出来ない気がするけど。
 そんなこんなで1年が過ぎて、クリスマスになった。もちろん、サンタなんている訳ないし、よしんばいてもクリスマスツリーも煙突もないウチのアパートにサンタが来る訳ないって知っているけど、それでも今年だけは期待したんだ。サンタ星からやってきた宇宙人が、その科学力で僕の好奇心を満たしてくれる事を。あ、でも、女の子なってしまいたいんじゃないんだ。ちょっぴり体験したいだけ。
 そんな夢想をしたせいか、12月25日の朝は早くに目が覚めちゃった。となるとやることは一つ。郵便受けと新聞受けを見る事だ。そしたら、なんとサンタさんからの小包が扉の外に置いてあるじゃないの。但し、宛名はお母さん。え? なんで僕じゃないの?!

 お父さんとお母さんが揃った所で、小包を開けると、中から僕宛てのプレゼントが出てきて、それは厚手パンストに包み込まれていた。どうも衣類っぽいので、
「コスプレの何かかなあ」
とぶつぶつ言いながら開けると、なんとショーツとキャミソールだった。もっともショーツの方は男物か女物か分からないけど。
 「なに、これ?」
と反射的に声に出したものの、同時に、こんな千歳一隅のチャンスだから、履き心地を試してみたい気持も急速に膨らんで来た。いや、だめだ、そんな恥ずかしい好奇心を顔に出してはいけない、と思っても、声の堅さと、その後の様子からお母さんは何かを感じたのかもしれない。横でお父さんが
「誰だろうな、こんな手の込んだ事をするのは」
と言う横で、お母さんは
「でも、お父さん、ちょっと・・・」
と言ってお父さんを隣の部屋に連れて行った。あとから聞くと筆跡の話をしていたらしい。
 両親がいない間に、ショーツをつくづくと見ると、中にプリントアウトが一枚はいっていた。それを取り出すと
『おちんちんの正しい隠し方』
と書いてある。そう言えば、女の子のように何もない股間を作ろうとタマを前や後ろに隠そうとした事が何度もあったなあ。どうやってもタマを傷める事には変わりない気がするけど、それでもよりマシな方法があるのか。
 そんな感慨もあらばこそ、この紙だけは両親に見られてはいけないと反射的に思って、すぐさまポケットの中に隠した。胸がドキドキしているのを感じる。それから、ショーツとキャミソール、パンストを広げてゆっくり見たけど、見れば見る程、これが紛れも無く女物である事が分かり、それが分かると、次第に、これらを履いてみたときの感触がどんなであるかが気になってきた。

  暫くして隣の部屋から出てきたお母さんは
「とりあえず、お母さんが預かっておくね」
と言って僕への贈り物を回収したけど、昼食が終わり、お父さんが外出した後に、お母さんが再びやってきて、僕の気持を確認してきた。
「あんた、これ、着てみたいの?」
余りに単刀直入でびっくりして直ぐには答えられなかったけど、即座に否定しなかった事がそのまま肯定と取られたのか
「いいのよ、恥ずかしがらないで。こんな形で堂々と着てくれた方が、こそこそ着られるより遥かに良いのだから」
と云うに及んで、とうとう
「でも、着てみたいだけだよ」
と答えてしまった。悔いはない。
 そのあとお母さんが買い物に行って僕一人になった時に、さっきのプリントアウトをつくづくと読んで、確かに我流でタマをお尻の方とかに追いやるよりも、タックとかいう方法の方が精管とかいう奴が傷つかない事が分かった。でも、こんなこと、僕が今まで検索しても分からなかったけどなあ、と思って、再び検索すると、どのサイトも15禁とか18禁とか書いてあった。え、なんで? 知らない事の方が余程危険なのに、大事な情報は全部子供の目から隠されている! でも、今はもう大丈夫。
 明日はこの下着を身に着けてみる事にしている。お母さんに云わせると洗濯が大変だから、一日同じ下着を着なさいとの事で、だから明日。その時に、このプリントアウトの方法を試してみよう。トイレも女の子の股間のままでやってみようっと。
 女の子ってどんな感じなんだろうなあ。


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