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四月馬鹿2編

by 夢喰

1.

 今日は4月1日。着任する先生と定年引退する先生の挨拶で登校日になっている。毎年クラスメート(毎年メンバーは違うけど)で四月馬鹿を楽しんでいるけど、僕の嘘は完全にから回りだった。昨年は他のクラスメートがアイドルの動向とか、漫画の最新版の裏情報とか、先生に恋人が出来たらしいとか、そんな話をしているなか、ユニークさで勝負とばかり
「この陽気にカエルを見つけた」
と言ったら逆手に取られて
「うん、オレも見つけたので、おまえののかばんに入れといたぞ」
と言われ、びっくりしてあわてて鞄の中を調べたりして笑われる始末だ。

 どうしてもぎゃふんと言わせてやりたい、と思い悩んでいると、終業式の日に女子のクラスメート2人(僕が密かに好意を抱いているトップ5の2人)から「転校生の振りをする」という提案を受けた。カツラをして、ちょっと顔をいじれって、女の子の振りをすれば、登校日の数時間ぐらいは分からないだろうとのことだ。他ならぬこの二人が僕を助ける為に、そこまでしてくれるなんて、と感激したし、衣装合わせというか顔をいじる練習の為に彼女たちに何度も会えると思うと、思わず嬉しくなって、嬉々として提案に乗った。もっとも、その為に
「そんなに嬉しそうにして、もしかして女装してみたかったの?」
とニヤニヤされてしまったのは全くの不覚で、顔が熱くなるのを感じてしまったのは二重に失態だったけど。

 こうして僕と彼女たちの「メイクアップ」練習が始まったのだけど、その初日にびっくりしたのが、カツラが本物の黒髪ボブの自然なカツラだったことだ。なんでも親戚から中古のカツラを借りたか貰ったかしたらしい。そこまでされると、僕みたいなモテない男の子に、と気持ち悪くなりそうだが、裏があることはすぐに分かった。だって、メイクアップ中は、いかにも「実験台で練習していますよ」という会話を続けているし、
「そのかつら気に入ったら、○○のゲームと交換でもう一回貸してあげるわよ」
とあけすけに僕がお年玉で買ったゲームを指定してくるのだから。ここまで下心満載だと、かえって安心してしまうのは、モブ男のう悲しい性かもしれない。それでも彼女たちの近くにいることに幸せを感じる僕は、エープリルフール作戦への協力という名目を守って、彼女たちの練習台にすすんで付き合った。顔だけでなく、カツラの付け方とか、姿勢とか歩き方とか、スカートを留める位置とか。
 ネット情報を集め、試行錯誤を繰り返したのだけど、僕には3回目以降は2回目との違いなんて全然わからなかった。でも、彼女たちに言わせれば「より女の子らしくなっている」とのことで、彼女たちの化粧の練習台の言い訳だけでもなさそうだった。いや化粧練習の言い訳でもこっちが好意を持っている女の子と一緒にいるのは楽しいから良いのだけど。
 それにしても、無駄な知識ばかりが増えていく。中には、腰(骨の位置をさすこと)とウエスト(腰の骨と肋骨の骨の間の空白地域)の意味が全然違うこと、要するに「ウエスト」に合う正しい訳語が未だに日本語に存在しないこととか、男のウエストの位置と女のウエストの位置が全然違っていること、子供でも女のほうが膝、肩など関節が細く、胸囲は男のほうが大きいことなど、役に立つかもしれない知識もあったけど、大抵はどうでも良い知識が増えてしまった。タックとかブラジャーのサイズの呼び方とかは言うに及ばず、スカートをホックで留める場所は僕の場合は肋骨でなければならないことや、それだと簡単にずれ落ちるから、肩から吊るすタイプのスカートの方が良いこと、スカートに女の子っぽい輪郭を与える為に、タオルや古パンストをパンツの裏に入れなければならないこと、それがずれ落ちないようにするには、いっそのこと二重履きにして、あそこをタックしやすくする技術とか、本当にどうでも良いことだらけだった。女装の難しい。

 こうして迎えた4月1日。まず彼女達のうちの登校路に近い方の家に寄り、そこで着替えと変装を済ませて一緒に登校した。

 結果は散々だった。いきなり彼女が、教室でたむろしている女友達に
「あ、こっち**君ね、女の子になりたいんだって。だからちょっと似合うかどうか試してみたの」
と紹介したからだ。僕がどんなに否定しても、もうひとりの女の子の「証言」もあって、エープリルフールとは思われなかった。ネタ明かしは始業式の日にまで延ばされて、その後も誤解を完全に解くことは出来なかった。あとから彼女たちに言い訳を聞くと、当日の朝、突然、この「二重嘘」を思いついたそうだ。

 こうして僕はイベント要員として、イベントがあるごとに女装を要求されるようになった。でも良いこともあった。再び同じクラスになった彼女たちと一緒に過ごす時間が増えたのだ。もっとも家を訪問すると3回に1回は「新しく入手した方法」による化粧の練習台となって、そのついでに女装もさせられるけど。
 それにしても人間は慣れる動物だとくつずく実感した、2学期には女装を楽しみ始めている自分を発見したから。男では絶対に着れないような服とか、怪盗と同じく変装している気分になれるからだ。それも女の子公認。普通は「現実」の女装はキモいって思われるそうだ。だから、いつしか下着女装にすら目覚めるようになってしまったけど、しかたないよね。中学では女装デビューしてみても面白いかな、と変な好奇心が生まれて来て、ちょっと困っている。


2.

 スーパーの折り込み広告だって衣料品ではモデルの写真があったりするけど、そのうちの子供服は、服のメーカーから提供される写真以外はそれこそ家族親戚ご近所でまかなうのが常識だ。今回のチラシは新学期特集で、特に子供服が多い。というのも子供の新学期デビューが上手く行くことを願って、親の財布の紐が緩む時期だからだ。
 普段のように3学年おきの男女1名ずつではとても間に合わない。もちろん、モデルが風邪をひいて撮影の日に来れなかったからという理由(他の時期なら良いのだけど)で人を省略するなんて、他の時期は良くてもこの時期は戦略的にまずい。特に女の子の服はそうだ。
 とはいえ、3月下旬はみなバタバタして、毎年綱渡りだった。今年もその例にもれず、いや、例年より悪く、撮影の日に実際に来れたのは男子がギリギリ数で、女子は2人不足。小学校高学年と中学生が足りない。高校1年(2年直前)がひとりいるので、その年齢レンジはカバー出来るが、10歳代前半がまったく無理なのだ。反抗期前(人によっては手遅れだけど)の親が子供を着飾れる最後の年代で、当然、親の財布は緩む。その写真を外すなんてあり得ないが、このままでが4月1日のセール開始に間に合わない。

 4月1日、4月1日、ぶつぶつ。

 このとき閃いたんだ。四月馬鹿「嘘を探せ」企画を。そう、男の子に女の子の服のモデルをやって貰うことを。
 チラシに堂々と「モデルの中に変装で騙している人がいます。当てた方から先着抽選で3名様に**をプレゼント」と書けば、チラシを丁寧に見てくれるだろうし「男の子ですらこんなに可愛くなれる服」ということで売りやすいかもしれない。幸いこの年代の男子は背の高さだけなら女子と変わらないし、何故か運良くサイズのあう男の子は3人もいた。そこで2人に女の子役をしてもらうことのした。一人だけの女装なら気が引けても仲間もいて、かつお小遣いも貰えるなら協力してくれる可能性があがるからだ。
 あとはカツラだけ。たしか専門店のほうに売り物があったな。早速電話して協力を取り付けた。ついでに企画の中に「変装のウイッグもセール中です。詳しくはそちらのページを」とやって、変装者のウイッグの種類のヒントも入れておく。

 半年後。どういう訳か、その時の男子のうちの一人は、あまりにも好評で、女装モデルとしてうちのチラシの「顔」になってしまった。そのせいか、今や女の子の服のほうは男の子の服よりしっくりするほどだ。男の娘ってわけじゃないのに、回りがそう思ってしまうのって、やはり人間は社会的動物って気がする。あるいは着こなしの場数か。となると、彼が学校ではどういう格好をしているのか。彼の親は何も教えてくれない。


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