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幽鬼の転生譚

by 偽筆屋

幽鬼の転生譚(序)

聊斎志異に限らず、古来中華で「幽霊(昔は鬼と呼ぶことが多かった)」といえば、輪廻の道から滑り落ちた死者を指す。

そんな彼らにも這い上がる道は残ってる。それは、輪廻転生の道に戻ったり(崖から落ちた者が崖を登るようなもの)、幽霊や鬼世界で力を得る(国境の谷に迷い込んだ者が、隣国側の崖を登るようなもの)ことだ。そのために必要なのが、生者の「精気」という名のエネルギーだ。存在維持(生者でいえば新陳代謝)のためのエネルギー(燃料)こそ、お供え物やお祈りなどで十分だが、這い上がるには生者なの「生(なま)」のちから=精気が必要となる。その中で最も効率的なんのが男の精であり、具体的には精液と精子だ。だからこそ、怪異の類いは美女に化けて男の精をむさぼる。

初心者幽霊が男の精を得る手段は直接的な性交に限られる。というのも、それが男の精をむさぼるのに一番効率的だかからだ。格が上がると夢の中での性交でも可能となる。西洋風にいえば、前者がサバキュスで後者は夢魔と云ったところだろうか。上級鬼(輪廻から外れて鬼=あちら側の世界で上に登ったもの)となると、近くにいるだけで生気を奪うが、そこまで危険な鬼(もはや幽霊とは呼ばれない)は道士(道教の退魔師)や法官(仏教の退魔師)による討伐対象となる。

さて、幽霊に精をむさぼり尽くされて死んだ者はどうなるか? 詳しくは(*)に説明するが、簡単にいえば、彼らは、同じタイプの幽霊として新たな犠牲者を求めるようになる。その姿は、幽霊になった当初は一点を除いて生前の姿と同じだ。例外は陰部。「精」を絞り取り尽くされたゆえに、精気の象徴である男性器、具体的には睾丸と海綿体(陰茎の勃起可能な部分)が形骸化する。要するに、宦官とほぼ同様の姿となる。

精気を吸い取られた者が、次々に新たな犠牲者を生み出すなら、幽鬼はねずみ講式に増えるはずだが、現実にそうならなかった。

昔の男達は、ほとんどが肉体労働者で、毎日十分に陽光を浴び、非常に多くの精気を持っていたからだ。いくら精気を与えようとも、それこそ複数の幽霊を輪廻の道に戻してもぐらいで精を搾り取られても、死ぬなんてもってのほか、衰弱することすら無かった。もちろん、体力が落ちて流行病にかかりやすくなったり、事故に遭いやすくなって、それゆえに命を失うことはあるが、そういう死因の場合は、幽霊の行動が主因でない限り、幽霊にならずに輪廻転生する。

その一方で、書生と呼ばれる連中(科挙勉強中の受験生)、例えば聊斎志異の主人公たちは、机に向かい続けている貧弱男だ。陽光のもとでの運動や肉体労働等、精力を高める手段が(受験生ゆえに)事実上禁止されているため、ちょっと精を搾り取られただけで衰弱する。それでいて、彼ら書生のほとんどは親が金持ち・役人ゆえに、母親も祖母も超絶美人だから、遺伝的に顔は良い。要するに、顔・体型とも、少女漫画の主人公のような優男、現代風にいえば「中性的な容姿」で、面食いの幽霊たちにとりつかれやすい。かくして、一人の幽霊が何人もの若者の「精を吸い尽くして」殺してしまうのである。

結果的に、大多数の幽霊は「元優男」だ。彼らは、幽霊になった当初の姿こそ(男性器がかなり退化しただけの)生前の姿だが、次第に男性器以外の精気の元、例えば体格や皮膚、顔つき等から「精」が失われ、骨格が細くなり、色が白くなり、顔から厳つさが消える。要するに、今風にいえば「男の娘」化する。

彼ら「精喪失型」の男の娘幽霊は、転生したいという本能に従って(詳述*)、生きている男達の精を性交で得るべく、男を誘惑し始める。しかし、それは簡単ではない。というのも、どんなに華奢で、かつ男性器が退化しても、女ではないからだ。胸も尻もなければ、滑らかな腰の括れもなく、肩幅も広いし、喉仏もある。女性特有の曲線美は何処にもない。

そういう彼らがいかにして小柄で柳腰の美女に変身したかについて、聊斎志異はおろか、いかなる古典書もほとんど書いていない。幽霊には実体がないから、いくらでも変形出来ると思われるかも知れないが、精液という実体を吸収してしまっている事実、往々にして一緒の食事をしている描写、なによりも合体の触感を与えているのことを考えると、簡単に納得できる説明は存在しない。死んだ美女の皮だったとかや煙から生まれたという例話はあるものの、それらは討伐されるレベルの上級鬼であって、初心者幽霊から明らかにかけ離れているからだ。精々が、夢による誘導で、それによる夢精の一部を取り込んでいるというもの。真相は闇だ。


(*)中華には魂魄(こんぱく)という概念がある。魂は人間の理性を象徴し、魄(はく)は動物的な欲望(本能を含む)を象徴する。そして、このうちの魂は、死後しだいに蒸発(昇華)し、残された魄(はく)は、欲望のままに行動を始める。そして、欲望の最大のものが食欲(精気を貪る欲)と復讐欲となる。いずれも理性の箍(たが=魂)が完全に外れた場合、悲惨な結果をもたらすことは生者・死者に関係ない。日本でいう「幽霊が悪霊化する」というのは、このような状態、すなわち、魂が完全に蒸発(昇華)しきった状態を指す。他に大きな欲として「思い残し」欲があるが、こちらは理性による欲という面が強いので、余り悪影響を与えない。
 次第に魂を失った幽霊は、「はやく輪廻の輪に入りたい」と考える。そして、精喪失型の幽霊の場合、手段は生きている男の精のみが、輪廻の輪に戻る為の唯一のエネルギー源(燃料)なのである。そして上述するように、初心者幽霊は、男とセックスしなければ、幽霊の状態から抜け出られない。99%以上の男にとって(性的マイノリティは統計的には0.5%未満だそうだ)これは想像するのもおぞましい行為だが、幽霊状態という(RPGでいう)「状態異常」においては、男を受け入れることへの精神的忌避感(理性:要するの男の魂)が非常に薄められており、大抵の幽霊は年月を経て、男を受け入れることに抵抗がなり、本能に従って男の精を求めるようになる。ちなみに、昔の中華では男同士のセックスは男色に限らず頻繁で(昔の寺のようなもの)、大抵の幽霊は49日以内に男を誘惑する手だてを考え始める。


幽鬼の転生譚(本編:1)

幽霊初心者の私は、始めのうちこそ、自身の転生のために他の若者を犠牲にすることをためらっていましたが、次第に転生本能=吸精本能が強くなることを止めることは出来ませんでした。幽霊とは転生欲以外の欲望・楽しみの全くない苦しいものです。生きているうちに楽しんでいた娯楽はすべて味気なく感ぜられ、知識欲すら消えてしまっています。地獄をいうのを経験したことはありませんが、これは一種の地獄ではないかと思うほどで、できれば早くこの状態から逃れたい。それが唯一の欲である転生欲をますます強めるのです。

だから、数週間もしないうちに、条件次第では生者の精を奪って衰弱させても構わないと思うようになっていました。そのきっかけになったのが、フワフワと漂っていううちにテレビの映像に映った女装男の話。そうです。今の現世には「男の娘化」を望む男が少なからず存在するはずです。そんな簡単なことを私はなぜ今まで忘れていたのでしょう。私の今の体は、体型こそ男ですが、生前より華奢で色白で体臭もなく、何より男の象徴がほとんど消えています。陰嚢や陰茎の入れ物こそ残っていますが、その中身がないのです。女装趣味のある男達には理想的な体ではありませんか。

しかも、幽霊になってみてわかったことですが、男(オス)に転生するためは、女(メス)に転生するのに比べて数倍もの精気が必要となります。私は今でも出来れば男で転生したいと思っていますが、女に転生したがっている男や、女というのを体験してみたがっている男なら、私に精を取り尽くされて幽霊になっても、転生の敷居はそこまで高くないでしょう。せいぜい、別の女装男を一人衰弱させる程度の精気で十分の転生できるでしょう。だから、そのような男から精を得ることに、私に僅かに残った理性(魂)も差し障りを感じなくなったのです。

こうして、私は女装趣味の男を見つけるべく、女装メイド喫茶を張るようになりました。メイド達の顔と名前、性癖も覚え、常連客のうちの女装者の顔も覚えて、いよいよ彼らを誘惑する方法を考え始めたとき、私ははたと問題に気付いたのです。女装に慣れている男が、私のような去勢男に情欲するものだろうか、と。体型はともかく、少なくとも彼ら以上に「セックス対象」としての女の子を感じさせる衣装でないと、誘惑そのものが出来ません。不幸にして、私にはその手の知識はないし、私の持つ服装も限られています。それは、死を感じた瞬間から火葬までの間に着せられた服です、具体的には、私が衰弱で倒れたときの服と、死出衣装、病院服です。少なくとも情欲を抱かせる服ではありません。

そのことに気付いて落ち込んだ私は、更に理性を失い、別の方法を模索するようになりました。それは「精の有り余っているものからなら奪っても構わないだろう」というものです。そんな連中の行く場所はただ一つ、ソープランドです。

ソープランドで一番始めに気付いたこと、それは女装メイド喫茶の女装連中と、娼婦連中との、性的魅力の圧倒的な差です。顔は同等程度、いや、むしろ女装メイドのほうが平均的には可愛い程度です。でも肉体の魅力と、それを全面に出す衣装が全然違うのです。娼婦のなかには、露出度が低くとも「この女とヤりたい」と思わせるような服を着ている強者すらいます。となれば、私はこの連中の仕草を真似、さらに衣装をなんとか調達しなければなりません。そこで、私は、露出度の低い強者に目をつけて、彼女を追うようになりました。更には彼女に直接尋ねてみたいと思うようになりました。今の私には理性というのが余り残っていないので、その善し悪しを判断出来なくなっていたのです。

そうして数日後、彼女の仕事からの帰り道、彼女の回りに誰もいない瞬間が現れました。彼女に直接尋ねるチャンスです。街頭と街頭のあいまのちょっとした闇を使って、私は彼女の前に立ち、姿を現そうとしました。死んでからこのかた、姿を人目にさらすのは初めてなので上手く行くかどうかは分かりません。同時に声もかけます。

彼女はぞくりと身震いさせるや、私の横を素早く逃げ去ってしまいました。そして、彼女の逃げたあとには、彼女の着ていた服が残っています。もちろん彼女が脱いだわけではありません。服の気配だけが残ったのです。私は直感的に、これが「幽霊仕様の服」だと分かりました。サイズこそ合いませんが、幽霊は体のサイズを変えることが出来ます。初心者幽霊の私でも、一定比率の拡大と縮小(高さと幅の比率が一定の相似形)なら可能です。そして、私に入り込んだ直感知識では、幽霊としての経験を積めば高さと幅の比率を変えることも、もっと複雑な変形も可能です。コピー機の機能のようなものです。いや、上級者ほど使いこなせるというのは、グラフィック用のソフトのツールみたいなものかもしれません。ともかくも、こうして、私は初めて、新たな衣装の獲得に成功したのです。

後日彼女が男との寝話に語ったところによると、闇の中になにかぼんやりしたものが浮いたように思った瞬間に、ほとんど聞き取れないような声が聞こえたとのことで、通り魔だかストーカーだか幽霊だか宇宙人だか知らないけど、おもわず恐怖を覚えて、我を忘れて逃げたのだそうです。なるほど、私の存在が原因で怖くなったからこそ、そこに影のように服(の気配)が残ったのでしょう。

もちろん確証はありませんから、他の娼婦でも試してみます。彼女らはことごとくおびえた様子で逃げ、そのあとには確かに服の気配が残ります。3人目だったか、4人目だったか、その時は、携帯の写メを取られるという予想外の事態となりましたが、CCDカメラの写真ごときに私が映る筈も無く(写メが幽霊を写すのなら、葬式の写真のほとんどは心霊写真になるはずだろう)、証拠は残らず大事には至っていません。それどころか、フラッシュの瞬間に、私の輪郭がよりはっきり映ったのか、今まで一番大きな驚きを与えたようで、上着だけでなく肌着すら残っていました。そして、それ以来、肌着が残ることが多くなりました。おそらく、人を恐怖に陥れる回数が多いほど、幽霊としての格というか能力があがるのでしょう。

娼婦達をおどかした翌日や翌々日は、彼女たちの会話に耳を傾けます。すると、回数を重ねるにつれて、私の姿が、よりはっきりしてきたことが分かります。と同時に、衣装も私が身につけたものであることも分かります。となれば、完全な人型として認識出来るぐらいに姿を現すことができるまで、この「ウラメシや」訓練を続ければ良い筈です。

もっとも、同じ地域で同じような方法で人を脅しすぎると、悪霊として退治されかねないというリスクがあります。そもそも、魅力的な女達に怖がられ、逃げられるなんて全然嬉しくありません。娼婦達が恐怖で逃げる様は、苛虐嗜好という特殊性癖を持っている幽霊には、退治されるリスクを負ってでも続けたくなる快感でしょうが、ノーマルな私は違うのです。だから私は、必要な服をそろえたところ段階でソープランドを離れることにしました。

それでも私は素晴らしい成果を得ました。それは性的魅力を出す服だけではありません。恐怖の度合いが高かった場合に残る肌着には、当然ながら彼女たちの体臭が染み付いており、その残り香のお陰で(体臭の無い)私は、視覚的だけでなく、臭いの上ですら女を装うことが可能となりました。性交で現場では視覚情報は失われ、触覚と嗅覚だけに頼ります。そのうちの嗅覚を騙す方法を手に入れたのです。

性的魅力を出す服と偽体臭。この二つの成果に満足した私には少しだけ理性が戻り、当初の予定どおりに、女になってもよいとか、女を経験してみたいと思う男をターゲットにすることにしました。いや、これは名目上の理由です。いかの転生の為とはいえ、ソープランドに来るような脂ぎった男や不細工な男に抱かれるのは体が拒絶したからです。セックス相手は出来れば美女が良いのです。それが物理的に無理なら、せめて将来(幽霊になった時に)美女になるような奴でないとやってられない。そう欲してしまったからです。

こうして以前の女装メイド喫茶に舞い戻った私は、その女装の出来にすっかり失望してしまいました。何となく可愛いけれど、性的魅力を感じさせない女装だったからです。その意味での許容範囲と言えるのは1人か2人。もちろん、私が精を絞る相手という意味であれば、ここの女装メイドの大半が許容範囲でですが、男を情欲させるかというと否で、要するに「ネタ」の一種に過ぎないのです。とはいえ、胸の谷間の作り方とか、さりげない喉仏の隠し方とか、偽尻を使って腰の括れを作ったりとかの技術は参考になります。もちろん、これら女装グッズを通勤から使っている人を脅して手に入れたのはいうまでもありません。ただし、娼婦と違って、肌着や補正下着、女装グッズまで落とすほどに驚いてくれる人は多くなく、今の私の技術でも3人に1人程度です。とはいえ、女装娘の服が加わり、かつ私もよりはっきりと姿を現すことができるようになりました。

女装用具を取り揃えた私は、今度は本物の女を手本にすることに注力するようになりました。具体的には、色々な人の噂話から、ビッチと呼ばれている人を特定して、その性的アピール色を学ぶことにしたのです。彼女たちの「キスかまわないよ」「セックス構わないよ」という各種信号は、スカートのチラ上げぐらいしか知らない私には参考になります。もちろん、これらビッチ達を怖がらせて服(の気配)を手に入れることは忘れません。

知識と道具を揃ったところで、いよいよ練習です。実をいうと、女装なんて幽霊になった今も恥ずかしくて、いままで一度も練習してきませんでした。いや、あの女装メイド喫茶の軽いノリなら、そこまで抵抗はないのですが、性的にみられることを目的とする女装というのは、来世も男に転生したい私には苦痛なのです。もっとも、それでも現世よりははるかにマシです。というのも、生々しい着替えでなく、それこそゲームのように「装着」を思い浮かべるだけで着替えが済むからです。それに接触感も余りありません。幽霊だから当然なのです。ただし接触感がゼロでないのは、例えば寄せ胸の形の調整とかそういったものに必要だからで、それはそれで女装の訓練に役立ってくれているわけです。

持っている服を全て着こなす練習を一通り終えたところで、いよいよ実践です。ただし、練習程度なので、本命の「女の子とのセックス歓迎の男の娘」たちは外し、大学生を適当に狙います。もちろん、肥満した連中は外し、どちらかというとインドア系の華奢な連中です。

一人目は接触する前に気味悪がられて逃げられました。服の気配が残されたといえば、だいたい分かると思います。2人目も接触失敗。ただし、服の気配が残っていませんから、怖がられなかったようです。こんな風にして、気味悪さや不自然さを減らして、5人目だったか6人目だったか、いきなり私を捕まえてキスを求めてきました。目を見ると理性が飛んでします。いわゆる痴漢という奴で、これが現世の人間ならこのままレイプされるでしょう。

私は一瞬逃げようとしたものの、次の瞬間には幽霊の転生(吸精)本能に突き動かされていました。嫌々風にキスを認めたのです。一旦キスしたら、そこからは幽霊の支配下です。男は私が作る幻覚のまま、私に胸があると錯覚し、私の体が高校生のように柔らかく、そして私に女性器があると錯覚します。そうして、とうとう下半身をむき出しになって私に射精しました。もしも第3者がこれを見たら、立ち小便の格好で何も無い空間に陰茎を突き出している変態にみえるでしょう。もちろん法的には猥褻物陳列罪となります。ただし、精液はそのまま私の糧となりますから、第3者からは見えません。

「ここではだめ、あなたの下宿にいきましょうよ」
と男に声をかけて、そのまま男には、私と手をつないだ幻覚を与え続けて、その夜は、男から徹底的に精を搾り取りました。そして、その翌日、私は悟ったのです。私のような初心者幽霊でも、きちんと精的に結ぶついた相手なら、その夢に入り込めると。こんなレイプ男なら、精を搾り取って殺しても、私に僅かにしか残されていない良心は傷みません。

精を搾り取られて判断力が鈍った男は、私にねだられるままにレンタカーでドライブに行き、崖のカーブで、私に視界を塞がれて、自損事故で死んでしまいました。死因のほとんどが幽霊(私)なので、男は輪廻の輪から転げ落ちて幽霊となってしまいます。

この時に知ったのですが、私にはこの男が見えるのに、この男には私が見えないようです。それは、自分が取り殺した相手しか見えないことを意味します。そういえば、私は自分が幽霊になって以来、回りに幽霊が見当たらないのが不思議でしたか、いないのではなく見えないだけなのです。そして、そう思い至ったとき、私は、私を取り殺した幽霊が私の女装訓練を見ていただろうことに気付いて、とても恥ずかしく感じたのです。


幽鬼の転生譚(本編:2)

レイプ男を取り憑き殺して数日、僅かに残った理性による罪悪感で、私は少し落ち込みました。車での事故までは要らなかったのではないかと。でも、あの時は私はハイになって最後まで突っ走ってしまったのです。もしかすると、それが幽霊の性なのかもしれません。一旦精を絞り始めたら、よほどのことが無いと最後までいってしまうと。

落ち込んだ理由はもう一つあります。それは、レイプ男から得た精の量が、期待より少なく、最低限の輪廻(女転生)すらできない程度だったことです。この分だと、男転生には更に5人以上取り憑き殺さなければなりません。もちろん人によって精の量は違いますから、運が良ければ1人で済む筈なのですが、そういう「マトモ」な好人物に取り憑くのは悪いと思ってしまいます。勢い、精の量の少なめの者が対象になるわけですから、僅かに残った良心に従うなら、女転生で我慢すべきということになってしまいます。でも、こちらはもっと嫌です。

レイプ男の初七日、私は自身の幽霊としてのレベルが上がったことを直感しました。明らかな違いは髪の毛で、今まではカツラを意識しないと伸ばせなかった髪が、肩までながらも、自由に伸ばせることに気付いたからです。試しに女装を念じてみると、いままでは単純な拡大・縮小しかできなかった体が、縦横別の比率で変えられるようになり、女の細い体に合わせた服によりフィットしたからです。おかげで、中学1年の子供にむりやり女性服を着せるような違和感(肩幅に合わせるから、袖等が長くなる)が減りました。それから、これは直感ですが、キスでなく、もしも相手が情欲を持って私のどこかに触ったら、それだけで情欲を増幅させる気がします。

こうなると、ちょっと試したくなります。もちろん、今まで同様に女装は嫌ですが、それとこれとは違います。早かれ遅かれ次のターゲットから精を搾り取らなければならないのです。いつまでも落ち込んではいられません。それに、レベルが上がったことで、取り憑いた相手を殺す寸前で離れるだけの自制心がついた可能性もあります。あくまで可能性ですが、私が2人目を探し始めるには十分な動機でした。

とりあえず、保険の為に、始めの予定通り「女になってみるのも一興」と考えている男(の娘)を捜します。喫茶の女装メイドの通勤時に、道を尋ねたり、何度も偶然を装って顔を合わせたりして接触しました。幽霊としてのレベルがあがっているお陰で、完全な人間と見なされたいます。

でも、さすがに女装のプロだけあって、薄暗い時刻だというのに、私が男であることを見抜かれてしまいました。そして同好の志という扱いでと見なされてしまいました。そうなると、彼らが私の体に接触することはあっても、そこに情欲はなく、幻覚も発動しません。そういう意味では接触は失敗ですが、代わりに女装技術を丁寧に教えてくれたりします。それには歩き方や仕草まで含まれていて、結果的には参考になりました。

次のターゲットはどうするか。プロを相手にしたのが間違っていたのですから、たまにしか女装をしない人を選ぶのが良いでしょう。例えばコスプレ会とか、大学祭の女装コンテストとかです。問題なのは熱気です。祭りとは、多くの人の陽の気が発散されるので、陰の気の塊である幽霊には入りづらいのです。遠目から眺めてターゲットを絞り、ターゲットが普段基本的に男装であることを確認してから、祭りの翌週あたりのテンションの落ちた状態で接触するしかありません。

一番始めに接触したターゲットは一番女装の上手かった男でしたが、さすがにプロ級で私の女装を一発で見抜きました。普段が男装だからといって、上手い人は目が違うようです。次のコスプレ会まで時間がありますから、私はその間、別のターゲットを捜すことにしました。それは強姦魔です。すでに強姦とまではいかない男を取り憑き殺していますから、それよりタチの悪い男なら良心も傷まないでしょう。幸い、レベルの上がった私は、塀の上ぐらいまで浮遊出来るようになったので、痴漢注意の看板のある場所で、何かが起こるのを待ちました。

暇。暇暇。暇暇暇。

と、目の前に不細工な女装でおどおど歩いている20歳前後の男がいます。初女装外出でしょうか。

本来なら彼をつけて女装のきっかけとか性癖とか調査するのですが、プロの女装娘に見抜かれ続ける日々と、余の暇に、ついちょっかいを出してしまいました。

「すみませーん、**神社への道を尋ねたいのでけど」
とか細い声を出し(幽霊の基本能力であるテレパシーなのですが)、しばらくの会話のあと
「お兄さんって魅力的よね」
と相手が男であることを前提に話をつづけます。
「その格好、私好きよ。安心出来きるから。ほらここって痴漢が出るって噂じゃない。でもあなたと一緒なら安心だし」
と女装を持ち上げて
「そうそう、神社って薄暗いじゃないの、私怖いわ」
と相手を誘います。女装未熟男は女の子に慣れていないのか、顔を赤くしつつ
「行く方向が同じだから送ってあげようか」
と切れ切れに言って、エスコートしてくれます。
そうして10分ぐらい私が誘惑し続けたら、ついに落ちたのか、偶然を装って、私の手をそっと触ってきました。

瞬間、彼の情欲の念が流れてきます。こうなったら私のものです。情欲を増幅させた彼に唇を近づけるや、向こうから貪ってきました。キスの瞬間から、彼は私の胸を触る幻覚、体を接触させる幻覚を覚えます。
「あなたが好き、見た瞬間運命の人だと思ったの」
といいながら、あたかも私は彼の体を触り回る幻覚を起こして、今回もまた、彼のアパートに行く流れとなりました。

そこは確かに「初めての女装」に相応しく、男の子の部屋でした。服も男物ばかりで、女物の服は2着だけ。初めての外出は恥ずかしいから、暗めの道を選んだとのこと。

あとのことは語る必要もないでしょう。ひとたび彼から精を吸うや、幽霊の本能のままに、2ヶ月後に彼が死ぬまで精を貪り続けました。彼の死因は、急性の白血病です、20代男の死亡数は年3000人余りです。その5割が自殺、6分の1が事故ですが、実は成人病と呼ばれる心臓病・癌・脳出血も合わせて6分の1で、彼はそのうちの一人に過ぎないのです。

直接の死因は白血病でも、私がその主因なので、彼も輪廻の輪から転げ落ちて幽霊となりました。もっとも、彼の場合、自身が幽霊であることに気付いても、そして自身の男性器が大きく退化しているのに気付いても、前回のレイプ男みたいに、取り乱していません。いや、むしろそれを経験として楽しんでいる風すらあります。幽霊の基本知識として、転生の可能性があり、その際に男か女か確定すると分かっているという安心材料があるとはいえ、さすが女装願望の男です。実際、たまたま女性を脅して服(の気配)を手に入れるや、彼は、さっそく女装を始め、更に服を集めるべく行動を始めました。しかも、彼の脅し方は非常にマイルドで
「ちょっとぞっとした」
程度に収めています。私の良心を痛めるようなことは全くありません。ただ、ちょっと可哀想なのは、紳士的な脅し方ゆえに、強い恐怖で肌着も手に入れられる事に気付いていない点ですが、彼なら肌着の残り香を使わなくても男を騙せるでしょう。私もうかうかしていられません。

一方のレイプ男ですが、こちらは生前の性が直っていないらしく、近くをたまたま美しい女性が通りかかるや、姿を隠したまま横を歩き始めます。あわよくば、女の肌を触りたいと思っているのでしょう。女の方は、幽霊を見る時ほどの恐怖はなくとも、なにか怖さを感じるのか足を速めて明るいところに出ます。そうなると、幽霊は明るさと生きた人の出す陽気(二酸化炭素のようなもの)に耐えられません。そんな不毛な日々で、彼の体に僅かに残った精気が少しずつ消耗しています。要するに、より青白く細くなっていきます。このままでは、転生なんか不可能でしょう。そういう意味では、私は現世や来世での(レイプ男による)未来の被害を未然に防いだことになりそうで、彼を取り憑き殺したことに対する僅かな良心も消えてしまいました。

こうなると、私は男転生のために、もう少し精を集めても良さそうです。少なくとも、そういう行為に、僅かに残った良心は全く反応しません。

実は2人から得た精気は、女転生で良いのなら輪廻に戻るにギリギリ十分です。要するに私が
「女でも良いから転生したい」
と願った瞬間に私は輪廻の輪に戻るはずです。このことは幽霊の本能として直感的に分かります。そして、余り罪のない女装願望男を「制御の効かない幽霊本能の暴走」で取り憑き殺してしまったことに再び落ち込んだ私は、女転生で妥協することも少しだけ考えていました。でも、彼の49日もたたないうち、そういう考えはすっぱり消えてしまったのです。

さて、女転生で妥協するかどうか少しだけ悩んでいた1ヶ月余りのあいだ、私はただただ、暗闇の塀の上や木の枝で人通りをぼんやりを眺めていました。場所は痴漢が出てもおかしくない人の少ない場所で、人家もありません。だから、視野範囲で男が急に女に近づくのを目撃することもありました。大抵は100m近く離れているため、それが痴漢なのか、あるいは単純に女が男を呼び止めただけなのか分かりませんが、悪質な痴漢である強姦の場合だと、私がこっそり近づくあいだも続いていますし、その後の女の様子が他と違いますから、分かります。だから、私が男転生を決めたときに複数の痴漢事件を起こした犯人は既に特定していました。

あとは語るべくもありません。その2ヶ月後、1人目よりも悪質な痴漢男は、睡眠薬の過剰接種で死にました。私が
「最近よく眠れないので、睡眠薬を買ってくれない?」
とお願いした結果、その睡眠薬を間違って大量に飲んでしまったのです。他の人に私は見えませんから、第3者には彼が自分の意志で睡眠薬を買って飲んだと解釈されたでしょう。しかも自殺か他殺かを確認する調査の過程で、彼が痴漢を繰り返していたことが分かり、かつ2ヶ月ほどは全く被害者を出していないことから、罪を苦にしての自殺か、精神的な不安定による自殺と判断されました。

痴漢男が幽霊になった時は、レイプ男以上に取り乱していましたが、直ぐにレイプ男以上の痴漢行為に走ろうと女達に近づきます。でも、初心者幽霊の場合、幽霊から人間の直接触れることは出来ません。人間が情欲を持って幽霊に接触しない限り(完全な初心者の場合はキスを求めない限り)、幽霊からは手出しできないのです。ただただ、人間が、ぞわーっとした恐怖を感じるだけで、大抵の女性は足を速めてその場から逃げようとします。そして、その場に服(の気配)が残るのです。

痴漢男の行為はそれだけにとどまりません。風呂場を覗き、果ては女の寝室に入り込んで、完全に退化した男性器でセックスしようとします。もちろん、接触自体が不可能ですし、女も寝ていて恐怖を感じないのですから、彼は得るものがなにもありません。その為か、彼の体に僅かに残った精気も急速に失われ、49日を過ぎてほどないのに、その姿は地獄の餓鬼のようです。このままでは、地獄の獄卒に連行されてしまうでしょう。そう思ったとき、私は直感的に悟ったのです。この手の悪霊は、生理の苦しみと出産の苦しみを延々と与えられ続ける罰を受けることを。そして、その穴はどんなに丁寧に扱っても、決して快楽を得る事がないことを。生理と出産以外は男に戻って、男に犯されること。その際も一切の快楽はなく、恐怖と苦痛のみに支配されること。罰の期間こそ分かりませんが、痴漢男に相応しい罰と言えるでしょう。


幽鬼の転生譚(本編:3)

痴漢男の初七日、私は自身の幽霊としてのレベルが再び上がったことを直感しました。試しに実体化してみると、影こそないものの、鏡に映ります。それは私の「誘惑姿」を修正するのに多いに役立ちました。なぜ胸部を締め付けて細くする必要があるのか、なぜ尻だけでなく太腿にも詰め物をしなければならないのか、どういう立ち方歩き方がもっとも女っぽいのか、女装メイドのプロ連中の話からだけでは分からないものなのです。

幸い、幽霊としての私の体の変形能力も上がっています。今までは縦横厚みそれぞれ一定の比率でしか変形出来ませんでしたが、今は異なる高さで異なる比率の変形が出来ます。肩の部分をより細く、尻の部分を太く、胸の直ぐしたを思い切り細くといった具合です。だから、例えば一度でも補正下着(の気配、男の娘を怖がらせたときに手に入った)で体の一部を締め付けると、補正下着を外したあとでも、その形を概ね維持出来るようになったのです。現世の女性達や女装男達にとっては垂涎ものの能力でしょう。

ただし、輪切りごとの比例拡大・縮小より細かな変形はできません、例えば寄せブラで寄せた偽乳は、ブラなしでは維持出来ません。美尻と呼ばれる膨らみも、女性特有の滑らかな太腿も作れません。それでも、私の基本体型は男の娘たちのそれよりはるかに女性に近くあり、お陰で女装はほとんど完璧になりました。

こうなると、女装している連中に、私が見分けられるかどうか再挑戦したくなります。先ずはコスプレ参加者からです。前回みたいにプロ級は狙いません。ちょっとおどおどしている感じの、それでいてリアルの友達らしき人が見たら無い参加者をターゲットにします。前回より幽霊としてのレベルが上がったお陰で、そういうところが判断できるぐらいの距離まで会場の熱気に近づけるようになったのです。

会場近くの少し暗めの場所でターゲットに接近して
「あのう、もしかして今日のコスプレに参加された方ではありませんか」
と声(テレパシー)をかけます。
「とても可愛らしいコスプレで、すっかり気に入ってしまいました!」
「この次はいつ参加されるんですか?」
「どちらにお住まいで」
とぐいぐい押して行きます。私も女装に自信がついたお陰で、それこそ「私が可愛いって思われていることは知っているから」と自分の美貌を武器にする積極女と同じように彼に迫りました。

どうやら、今までと違って、私の女装に気付かないようです。お陰で、翌々日の夕方に彼の家の近くで会う約束まで取り付けました。大学の1年生で、来月の学祭で女装コンテストがあり、そういう話が回りで盛り上がったので、以前から興味のあったコスプレに初参加したとのことです。なので衣装は主催者が初心者向けに用意した借り物で女性用の服は持っていないとの事。でも、女装に興味がありそうなので、翌々日の彼が情欲ももったら取り憑き、そうでなければ、これ以上の接触はしない事にします。というのも、その学祭で新たなターゲットを見つけられそうだからです。

そして当日。公園で待ち合わせして、人通りが少なめの所をぶらぶら歩きます。定番の喫茶店? それは私のような幽霊には敷居が高いのです。それに夕方、人通りの少ない場所というのは、相手の本性を見定めるのに優れています。そうして、分かったことは、彼が完全な奥手で、どんなに誘惑しても私を触らないということでした。スカートが半分めくれるような転び方を演じても、情欲より心配で体を支えてきたほどで、結局私は彼への誘惑を諦めざるを得ませんでした。こういう事もあるのでしょう。

でも、成果はゼロではありませんでした。というのも、彼の同学年の男子に、ネカマを自慢している男がいることを聞き出したからです。よくよく聞けば、ソーシャルネットワークで女を演じていているそうで、リアルバレしらた不味いよね、と私に心配を振って来るほどです。

こうして私の次のターゲットはネカマ野郎に決りました。リアルで女装しているとか、MMOのみでのネカマならともかく、普通の男生活をして、彼女を欲しがっている男がネットワークでネカマしているのは、出会い厨しかありません。
「それなら、彼をいさめる為に私が会ってあげるわ」
「私、ソーシャルネットワークは苦手だから、ネット上では貴方が相手してくださらない?」
と持ちかけて、話はトントン拍子で進みました。コスプレ女装をするような男の子ですから、ネカマプレーを練習するのは悪くありませんし、私という(彼から見てリアルな)女性の代理という名目があれば、そのアカウントを作る事にも抵抗が少ない筈です。

こうして私は無事に、ネカマ野郎に出会い、ほとんど努力する必要もなく取り憑くことが出来ました。ネカマをやっているのですから、一度くらいは男性器を完全退化してしまう経験をしても良いのです。念のため、紹介してくれた超奥手には、
「ちゃんと説教したから大丈夫ですよ」
と伝えて、ネカマ野郎には四六時中張り付いて、
「ネカマしたら別れる」
と脅かしたので、ネカマ野郎に私が取り憑いていることなんて、奥手さんには分からないでしょう。

こうして2ヶ月後、またもや新しい転落死者が生まれました。事故なのか自殺なのかはっきりしませんが、ネカマプレーを懺悔する遺書らしきものが見つかって、自殺として処理されました。

こうして私は更に精を集めましたが、男転生にはまだまだ足りません。というのも、今までの4人はいずれも不健康で精が弱かったからです。痴漢男などは性欲は強かったものの、精の量は少なく、男としては全然だめなのです。だから、今のまま女装男やネカマ、強姦魔ばかりを狙っていては、あと3・4人から精を搾り取りださないと駄目でしょう。でも、だからといって健康的な男を狙う気にはなりません。

そんな具合で、私は直ぐに次のターゲットに移りました。それはネカマ野郎がですら、こいつは汚い、と罵る男です。ネカマではなく、ネット上で紳士然としているにも関わらず、巧みな会話術で信用を得てオフ会に持ち込み、始めの3回ほどだけ紳士的にして、その間にネットやリアルで秘密を探り、ギリギリ合法範囲で脅す事で女をモノに、ついでに金銭的にも寄生するという、古典的な詐欺師です。

問題は呼び出し方法です。私は実体がないので、キーボードをたたく事もスマフォンを操作することも出来ません。しかし、ネカマ野郎から、彼が何処に住んでいるかは分かっています。だから、彼を見張って、次の女のターゲットと接触する日程をあらかじめ調べて、先回りして彼を道路で待ち受けます。
「もしかして○×さんでしょうか?」
「お店が分からなかったので、ここあたりで待てば見つかるかと思ったの」
「服とか聞いていたからばっちりでした」
もちろん、相手の容貌や誉め称え、信頼感がある人だと告げます。

妙齢の女性(中身は女ではありませんが)から、そのように「待たれる」というのは、この詐欺師にとっては、仕事をやりやすい、と思ったのでしょう。だめ押しに、本当は捜しもののために店を回っていて、オフ会はその序で、みたいなことを話します。そうすると、彼の方から、他の人たちとの合同オフ会を止めて2人だけでオフ会する提案がありました。私から2人だけになる提案をするつもりでしたが、必要なかったようです。

あとはお決まり通りで、この日のうちに彼に取り憑くことが出来ました。そして、2ヶ月後は、彼も幽霊になっていました。死因は水難事故。真冬に海の海は冷たく荒れているのです。

さて、この頃になると、私が以前取り憑き殺した者たちが、私同様に、新たな幽霊を生み出し始めます。一番手は、案の定、女装未熟男(2人目の幽霊)で、普通に歩いていたのに男からナンパされたようです。どうやら、脅かし方こそマイルドだったものの、その数が多かったお陰で、早い段階で具現化出来るようになり、そうなると女装が楽しくなって、必要のないときまで具現化していたようで、それならナンパされるのも仕方ないでしょう。それが3ヶ月余前。今は既に2人目に取り憑いていて、あと1ヶ月半もすれば、女転生に必要な精がたまりそうです。ちなみに、彼の一人目の犠牲者である幽霊は私には見えません。どうやら直接手を下した相手だけしか見られないようです。

それから、レイプ男(1人目)も、ようやく一人目に取り憑いたようです。彼の場合、闇雲の女性のそばを歩こうとするだけで、覗きとか、恐怖の陥れるといった事はしていません。なので痴漢男(3人目)のような餓鬼の風体でなく、単純に精を失って痩せ細った姿となっていうだけです。それゆえに死んでから火葬の服が失われて、女物の服(の気配)だけが残ったのです。それでもふらふらと女の尻を追いかけ、今なら女装だから怖がられるまいと勝手に思い込んで具現化して近づくということを繰り返していました。それを繰り返すうちに、男色家系の女装男にぶつかって、キスされてしまったことから、幽霊としての本能が、ナンパ趣味(魂の一部)を上回って、男色家を餌食にしたようです。この分だと、彼みたいな男でも転生できてしまうかも知れませんが、私はそこまで心配していません。というのも、よしんば転生出来ても女どまりだからです。

今までに合計5人を幽霊に引きづり込んだことで、私は男転生の為の条件をよりはっきり認識できるようになりました。それは死んでから2年(三回忌)以内に必要な精を集めることです。もしも、期限までに、女転生に必要な魂の量しか集まっていなかったら、よほど強く「男」へ未練が無い限り輪廻の輪に戻され、男に執着した場合は、反対側の世界、すなわち鬼の世界の住人になってしまいます。今の私のペースですら、既に1年と3ヶ月もかかっていて、このままだとあと最低でも半年かかります。レイプ男のペースでそれだけの量を集めるには、よほど精の強い男に出会う幸運がないと不可能でしょう。

痴漢男のほうは、ますます地獄の餓鬼亡者に近い姿となっており、もはや地獄に落とされるのは時間の問題です。彼ぐらいになると、鬼の世界にすら入れてもらえないでしょう。一方、2ヶ月前に幽霊になったネカマ男は、女装を上達することで、女の子に近づこうしています。なので、レイプ男(1人目)と同様に転生できてしまうかもしれません。

閑話休題。私は男転生に向けて次のターゲットと接触しなければなりません。めぼしい候補は、3ヶ月前の女装コンテストで見つけています。コスプレの時と違って、超奥手男とネカマ野郎から前情報を貰っているので、複数の参加者の行動パターンや下宿先を把握しています。なので、彼らのうち、密かに女装に興味のある者を特定するのにほとんど苦労はありませんでした。そのターゲットには、出来るだけ下宿の近くで顔を合わせるようにします。そしてその際に会釈をします。相手には私を知りませんから、近くに引っ越してきた女性とぐらいしか認識しませんが、そういう事を何度か続けたあとなら、声をかけてもおかしくありません。
「このあたりに住んでいらっしゃるんですよね」
こうして日常会話が始まって1週間もすればかなり親しくなります。ここからは、彼の趣味(私は知っている)に合わせた話をして、一気に引き込みます。果たして、彼と出会って半月後、彼は私に情欲をもって、軽く触りました。

2ヶ月後、私はまたしても幽霊としてのレベルが上がった事を直感しました。具体的には女性器を除いて体を自由に変形出来るようになったのです。つまり、偽乳も美尻も魅惑的な足も自由自在で、顔も多少は整形出来るのです。男の娘どころか、女性達からも羨まれる能力といえるでしょう。しかも、女の人を脅さずとも、一度でも見ただけでその人の着ている服と同じものを手に入れられるようになったのです。季節は初夏。薄着が当たり前ですから、今まで以上に誘惑が簡単になります。だから、7人目、8人目の餌食はも簡単に手に入りました。しかも2人をほぼ同時に、異なる時間帯に夢で相手したので、2人合わせて3ヶ月かかっていません。

幽霊としてのレベルが上がった利益はもう一つあります。それは、一旦取り憑いても、幽霊の本能を暴走させずに殺す前に手を引く余裕が出てきたことです。恐らく精が溜まることで「魂=理性」が強化されたのでしょう。それでも7人目を8人目を幽霊にしたのは、7人目が糞野郎で、8人目が精神疾患系の現実逃避者だったからです。後者は「男」として生きる事からの逃避として女装したりしていたほどで、それぐらいなら「男でなくなってしまう」経験をさせるべく幽霊になってもらうべきだと思ったのです。

ともかくも、私は晴れて男転生に必要な精を期限まで4ヶ月以上の余裕をもって集めることができました。


幽鬼の転生譚(本編:4)

精を集めたからといって今直ぐ輪廻の輪に戻る必要はありません。三回忌の法事(期限)までに戻れば良いのです。だから、それまで幽霊として滞在することにしました。というのも、幽霊としてのレベルが上がった結果、精を多くの人からす少しずつだけ吸い取ったらどうなるか興味が沸いたからです。興味、すなわち知的好奇心というのは、社会的秩序を守る為の「理性」と同じく「魂」の働きであって、初心者幽霊ならほとんど失っているものですが、精を十分に吸収したお陰で魂が強化されて、そのまま知的好奇心に繋がったようです。

こうなるとターゲットは誰でも良くなります。というのも、現代人は性交のほとんど純粋快楽の為に行なっていて、子づくりの為の性交ではないからです。中には子供を作らない前提の人もいます。ならば「子供はいらない」とか「結婚は面倒」とか公言している男をターゲットにすれば良いだけです。そんな男達のうち、性欲の強い人なら、「精を少しだけ吸い取った上で、幽霊の本能にあがなって離れる」ことができるか試しても構わないでしょう。

となれば、狙いは、子供を作らないと公言しているうち、ソープに訪れるような男です。接触して始めの2人には「素人相手は怖い」と逃げられましたが、3人は見事に引っかかりました。ただし、私も幽霊本能の暴走が怖いので、一夜限りの吸精で離れます。もっとも、これも対象を増やすうちに2晩、3晩と増やして行き、最終的には3週間ぐらい吸精を続けても、そのターゲットから離れられるようになりました。もちろん、その男だけにかかり切りではありません。同じ夜に複数の男の夢から異なる時刻に精を貪っています。

数をこなしたせいか、男達の中には服をプレゼントしようとする者もいました。幽霊である私は昼間具現化することは出来ないので、一緒の買い物は無理ですが、それでも一緒に買い物にいく夢は見せてあげられます。デートをしたいという男の欲望が夢に反映されたら、自然と買い物まで付き合ってね、とねだることになるからです。そして、その際に買うのは、私が既に持っている服(の気配)と同じものであり、そういう服を夢の中で店の中に陳列させる訳ですが、そんな夢をみた男達の一部は、私への秘密のプレゼントとして色々買ってくれる人も出てきます。もちろん買ってくれる人もいます。私のサイズは夢の中で伝えているし、私の着ている服(の気配)からサイズを推定だって出来るからです。中にはネットショップでエロい下着を買ってくる強者もいます。いかに婦人服や女性下着が男にとって敷居が高くとも、恋は盲目で、プレゼントの為なら買える。それが現実のようです。

彼らが買った日の夜には、夢の中で私に渡してきますから、その記憶は単純な夢として処理して、夢の中で玄関のチャイムを鳴らし、彼らが起きたあとは具現化して部屋に入ります。夢ではなく幻覚なのは、彼らに具体的な行動を起こさせるためです。そして、幽霊である私は実在物を持ち運び出来ないためです。具体的には、私がその場で開けるような幻覚を見せつつも、実際には彼が服を取り出して、そのまま、彼が普段使っていないような場所(たとえば押し入れの奥とか、箪笥の奥とか)にしまってもらいます。

それらの服を捨てないのは、もしかすると実物が後日必要になることがあるかも知れないと思ったからです。例えば下着だと、翌日に着用してくる事が期待されます。服だって何度か使えば選択する必要があるでしょう。いかに夢だけで済ませることは可能とはいえ、半同棲状態であれば洗濯物も出る訳で、それが全くないのは不審に思われるかもしれませんし、何より、別れたあとに服を残せば
「プレゼントはお返しします」
という拒絶のメッセージにもなるでしょう。

だから、下着の場合場、翌日も具現化して、彼に件の下着を彼のアパートの洗濯機の底に入れるように仕向けます。こうすれば、私の存在が夢でなかったと思うでしょう。服の場合は、別れる直前の洗濯に紛れ込むようにします。

だから、彼らとはすっぱり縁が切れたと思ったのですが、しばらしくして、ポツポツと精が入ってくる事があったのです。性交の夢の時の1%未満の微々たる量で、幽霊にとって全く意味をなさないのですが、それでも3度も起こると気になります。翌日、その精の持ち主の様子を見にいくと、私の為に買った服を取り出して、それに情欲しています。

でも、その程度の情欲では私に精は入ってきません。不思議に思って、何日か見張っていると、又も精が入ってきました。見ると、彼が女装して興奮しています。私に対する情欲が行き過ぎで、私が着た(と彼が思っている)服を身につけることで発散したようです、とんでもない変態さんで、生前の私には到底思いもよらなかった方法です。

でも、とにかく、新らしい形の吸精手段は見つかったのは確かで、そうなると、この女装興奮でどれだけ効率が上がるか気になります。でも女装はそれが似合う人でないと、いくら幽霊の私でも見る気になりませんし、醜い女装に至っては吐き気を催します。幸い、私のターゲットの中には、とても華奢で、女装コンテスト上位者や女装メイド喫茶の連中より女装が似合いそうな子も数人います。その中で、私に服をプレゼントして来た子もいたので、彼で試してみることにしました。

先ずは具現化して、幻覚で操作します。服は彼が買ってくれた奴で、彼が迫ってくる時に
「私、本当は女装した男の人の方が燃えるの」
「私がその服をきるから、貴方は私の服を着て下さらない?」
と彼に迫ります。華奢な男なので、サイズはギリギリ大丈夫です。そうして、くだんの服を仕舞っていた場所から彼に取り出させ、そのまま彼に着させます。その上で、幻覚上で性交したら、なんと、精の1割しか入ってきません。幽霊という非実在物より、服という実在物に精を奪われたからでしょう。いや、あるいは女装状態だったからか。

検証の為に、こんどは幻想上での女装を別の子で試します。夢で彼を私の部屋に連れ込み、そこでカレーとワインを盛大にこぼして彼の服を着られない状態にしました。夢ですから、下着までべちゃべちゃです。もちろんシャワーという流れになります。部屋には女物の服しかありませんし、乾燥機もないので、彼は、手洗いで大きな汚れを落とした上で、そのまま家に帰るという提案をしますが、
「パンツ系のあるから、それを着れば良いわ」
という言葉に納得して、服を洗濯機に放り込みます。

そして、パンツ系はサイズが小さすぎて入らないという流れになります。なので、夢の中の(彼の潜在意識が起こす)行動は、伸縮性のあるレギンスとゆったりしたチュニックを選びます。下着は、新品がそれしかない、という設定で、フリル付きのショーツを渡します。すると、もう、それを手にした段階で彼は興奮を始め、彼のショーツがテントを張っているのを私が凝視した(と夢の中で思わせる)だけで、夢精しました。その時に私に入ってきた精の量は、彼が失った精の量の1割程度。性交の夢ではないので、こちらでも確かに少なくなっています。

夢を続けます。だから、彼はその格好で家に帰らなければなりません。そうなると、完全な女装にしないと悪目立ちします。そういう事で(あくまで夢の中ですが)髪型を変え、化粧を施し、ブラジャーもしてもらいます。夢の中だから、サイズはどうとでもなるのです。そして、それら下着は、彼のものとなり、代わりに私は新品を買うようにおねだりします。もちろん、
「貴方、そっちの方が魅力的だわ」
と褒めるのも忘れません。
そうして、女装のままで私と一緒に彼のアパートに戻り、改めて男の服に着替えて、一緒に女物の下着を買いに行く流れで、彼に選んでもらった下着を買う流れです。その際、彼が恥ずかしさに何度も視線を外すうちに、同じデザインの異なるサイズを買うという設定を忘れません。下着の数が増えているのに彼が気付くのは財布としてお金を払う段で、そのまま私のアパートに着て、大きなサイズの下着を
「あれ、貴方とお揃いの下着にするから一緒に出かけたのよ」
と無理矢理言いくるめます。夢の中だから、コントロールは完璧で、そうして下着を着せ、更に、一旦持ち帰ってもらったレギンスとチュニックも、もう一度着てもらいます。その段階で、今日2度目の夢精となり、やはり彼が失った精の量の1割程度しか入ってこない事を確認します。

ここまで面倒な流れにしたのは、夢の記憶で婦人服売り場や、ネットの女性下着購入に慣れて、彼が女物の服や下着を現実でも買ってくれれば儲け物だと思ったからです。5人の華奢ターゲットのうちの3人までが、実際に私の為のネットで買ってくれるようになりました。幻覚状態でネットショッピングをさせることが出来れば、こんな面倒なことは必要ないのですが、私の見える範囲内でしか幻覚による直接的影響を及ぼす事が出来ず、いかにキーボードが目の前にあっても電話とカードがあっても、その向こう側へ影響を及ぼす事ができないのです。

現物が手に入った華奢ターゲット計4人から精を絞る際は、手を変え品を変え、彼に「実在する」私用の女性服を着させました。もちろん、事が終わったあとは洗濯機行きです。彼が正気に戻った時には、部屋に私用の服が干してあるという状態になるのです。その為か、私が彼から離れたあとも、彼らは時折女装するようになったのです。それは極僅かの量の精が彼らから入ってくることで分かりました。要するに、現実女装での性交の夢や、幻想上の女装で私を思ってのセックスなしの射精の夢は精の1割程度、現実女装でのセックスなしの射精だと精の1%程度が私に入ってくるようです。

もっとも、その後、彼らから、それまでの微量の精より更に少ない量(本来の0.1%未満)の精が入ってくる事がありました。これは検証しなければならないな、と思っているうちに、私はまたも幽霊としてのレベルが上がりました。男転生に必要な精が溜まってから約2ヶ月語のことです。

今回はレベル上昇では、幽霊としての破格な能力を得ました。それは、相手が私に接触しないでも、触りたいと思っただけで、私の方から相手に触る能力です。なんだか、パッシブな幽霊というより、アクティプな鬼に一歩踏み出した感じです。

いや、実際、私は狭間に近づいているのです。例えば、今まで退化しきっていた男性器が、3歳の幼児並みながらも復活し始めています。恐らく今のレベルは幽霊としての最高レベルで、次のレベルは「鬼」になるでしょう。そう直感が訴えています。鬼とは輪廻から踏み外した連中の作る世界で、一旦鬼の世界に踏み込んでしまったら、それこそお特の高いお坊さんや道士による祈祷がないと、二度と人の世界には戻れません。だから、幽霊や鬼のうち、男性器がはっきりあるのは鬼だけで、幽霊にはありません。その意味では確かに私は鬼に近づいているのです。

私は余り精を集めすぎてはいけないと悟りました。一番の安全策は、このまま輪廻の輪に戻って転生する事です。でも、射精の0.1%未満という微量の精が、それも勝手に入って来るのか気になります。これも、今の私には関係ない事とはいえ、気になります。知りたい事はもう一つあります。精を何度か吸っただけで別れた男達には、それでも精的リンクが残っていて、いつでも夢に入れるのですが、そのリンクが突然消えるようなことが数度あったのです。別れた順でも、精を吸う量が少なかった順でもありません。

だから、私は少し冒険することにしました。というのも、女装がらみだったら余り大量には精が入ってこないし、その程度の精の量なら、輪廻の輪に戻る期限(2ヶ月後)まで更なるレベルアップはないと思ったからです。よしんば大量に精が入っても、今までの経験から危険レベルは推定できているので、そこから自分自信の危険度もわかります。だから、レベルが上がる前に輪廻の輪に戻るのは難しくないでしょう。鬼にはならない筈です。そもそも、鬼になってしまうような連中は、鬼になる事を怖れていないのです。私は違います。


幽鬼の転生譚(本編:5)

先ずは例の確認です。微量の精が私に入ってきたときに、その精の元にたどり着くと、私と関係なしに単純に女装をして興奮しています。本来なら、私が初心者幽霊だった頃に会った女装連中と同様、私に精が入る筈がないのです。もしかして、女装のきっかけが私だったから、私の事を忘れてしまった状態での女装でも、それで興奮したら精が僅かに入ってくるのかも知れません。

これはサンプルをもっと増やして確認したいものです。現実世界で女性服を買ってくれる男が必要ですが、キモい女装は見てて嫌ですし、できれば女装に抵抗の少なそうな男の子のほうが効率が良いでしょう。だから、顔はともかく体格的に女装できそうな若い子のうち長髪の男の子を捜して誘惑します。華奢な体格のくせに髪の毛を伸ばしているような子であれば、女装の素質がある可能性が高いと思ったからです。精を吸い尽くすことが目的ではないので、条件にさえ見合えば誰でも構いませんし、罪悪感もありません、

あとは今まで華奢系のターゲットで試したことを繰り返すだけです。レベルが上がった事で、幻覚や夢での現実感が強くなり、ネットショップの購入待ちの状態まで誘導出来るようになっています。つまり、目が覚めたあと、記憶と現実を混同していたら、そのまま私の為の下着と思って購入手続きを済ませる可能性が高くなったのです。ネットショップは一度でも行なえば、敷居は低くなります。案の定、新しいターゲット達の半数は、この後も私の為の服や下着を買ってくれるようになりました。

彼らが現実に買った女性下着類を、私の誘導の元に着用させる、最後に別れるということを繰り返して、ターゲットのサンプルは20人近くとなっています。そうなると、確かに彼らが単純に女装で興奮している時に、射精の0.1%未満の精しか入ってこないようでした。

そういう検証の傍ら、私はリンクが切れて夢に入れなくなった男達のアパートや家を訪れました。すると、その半数は新しいパートナーを見つけています。残りの半分は一夜限りの契りかも知りません。そう思ってソープを調べると、私の元ターゲットで来ている男がいます。でも、彼との精的リンクは切れていません。どうやら、女の方からの好意がないといけないようで、それは納得するのですが、それでは消えた半分はどうなっているのだろうか、と思ってみてみると、いずれも衰弱の気配があり、しかも何故か近づけません。どうやら、別の幽霊、私には見えない幽霊が取り憑いているようです。可哀想に、私が理性で離れても、彼らは精を搾り取られる運命だったようです。

気になっていた2件が分かって、もう輪廻の輪に戻っても良いなと思った頃合いに、またも奇妙な精の入り方をする体験をしました。最低限単位の精、それこそ精子数個程度に相当する精が連続的に私の元に入って来るのです。24時間で換算すると、普通の男が毎日生み出す精力の3000分の1に対応する精が、私の元に入ってきているようです。しかも、それは必ずしも連続的でなく、始めのうちは数時間単位、日が経つにつれてより長時間単位で起こります。

これは非常に気になります。早速精のもとに近づくと、なんと彼は股間が全く消えてしまうような女装をしているではありませんか。それはもはや興奮の為の女装ではなく、女としてみられる為の女装です。あの女装プロの連中のやっているのと同じなのです。

睾丸を暖めすぎたり痛めつけたりしたら精子が死ぬことは、現代では良く知られています。それは「子孫を殺す」という行為であり、その分の精のうち、ごく一部が、女装のきっかけとなった私の元に来ているのです。考えてみれば当りまえです。

興味が出た私は、更にサンプルを増やす事にしました。この程度では、まだ鬼にはならない筈だからです。その結果、もともと女装を少しだけ始めていた男の子を女装にのめり込ませても精は入ってきませんが、女装に興味程度しかなかった男の子を女装趣味に目覚めさせると毎日の精力の10000分の1程度、ネカマしかしたことのない男の子だと毎日の精力の3000分の1程度、ノーマルに近い男の子で毎日の精力の1000分の1程度が入ってくる事がわかりました。

女装を毛嫌いしている子も調べたのですが、私が輪廻の輪に戻る前には分かりませんでした。というのも、私は緊急に輪廻の輪に戻らなければならないと感ずる事態が生じたからです。

それは2年の在世期限の2種間前の事でした。いきなり大量の精が入ってきたのです。人ひとりを2ヶ月かけて取り憑き殺して得る精の総量の半分程度といえば、その凄まじさが想像できるでしょう。その元となる人はまだ生きていて、彼の元に行って理由が分かりました。なんと、去勢手術(いわゆるタマ抜き)を受けていたのです。しかも彼は、私が
「貴方が女の子になってくれたらいいのに」
という夢を見せ続け、かつ別れる際にも
「女の子じゃないとこれ以上は一緒にいられない」
という夢を見せて別れたサンプルの一人です。
あまりにも可哀想になって、その夜は久々に具現化してあげました。そして、その時に気付いたのです。私の男性器が既に10歳児並みまで回復し、しかも勃起を始めてしまった事に。

目の前にいるのは、女性器こそないものの、完全な女装をしたニューハーフで、しかもどうやら女性ホルモンに手を出しているらしく、彼がブラジャーを脱いだあとに見える乳首が腫れ上がっています。

その時に直感したのが、ここで私が欲望に負けたら、鬼に堕ちてしまうだろうことです。必死に我慢して、慰める事だけに専念しましたが、今後理性が続くか自信がありません。彼(彼女)だけでなく、女装趣味が嵩じて去勢するかもしれない候補は他にもいます。

こうして、突如私は輪廻の輪に戻ることにしたのです。

ただ、最後に、私の得た吸精の秘密を、ターゲットの一人に夢の中で話聞かせることだけは忘れませんでした。知識とは、それを得てしまうと、誰かに話したくなるものだからです。そうする「知識に関する欲望まみれ」の行為が私を鬼に近づけるとしてでもです。私が無事に輪廻の輪に戻れたのは、本当にギリギリの幸運だったかも知れない。


幽鬼の転生譚(止)

こうして主人公の幽霊が男への転生を遂げた。しかし因果応報とは良く言ったもので、彼は男の娘として育ち、結局童貞のまま一生をおえた。そして、その後何度輪廻転生しようとも、彼は二度と「マトモ」な男には転生できなかった。

夢で吸精の秘密を聞かされた男が、それをどうしたかについては、日記に書いた言われているが、その行方は分からない。ただし、何処かの幽霊がその日記を読んだのではないかという噂はある。それが草食男子や男の娘を更に流行させたのではないかとも言われている。真相は闇の中だ。

執筆 2017年8月


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